そのモラハラ彼氏、いらないでしょ? ~エリート御曹司の略奪愛
「……陣さん、お時間ありますか? よかったら先日のお礼に、ごちそうさせてください」

 言った直後に、迷惑だったかもしれないと後悔したが、陣は迷うそぶりも見せずに笑顔で快諾してくれた。

「いいですね、ちょうど先日の店で夕飯にしようと思ってたところです。同じ店でいいですか?」
「もちろん。あのお店、とってもおいしかったですし。もっといろんな物を食べてみたいです」

 そう言ってからちょっと口を噤み、陣を見上げた。

「――でも、私と食事なんかして、ご迷惑ではないですか?」

 もし陣に恋人や奥さんがいたら、きっとその人たちにとって七瀬は不快な存在だろう。
 彼氏に浮気されているかもしれないのに、自分が陣のパートナーから誤解を受けるような立場になってしまうわけにはいかない。

「いえ、ちっとも。僕は休日出勤の社畜で、一緒に食事をする相手もいない淋しい男なんです」

 どこまで真に受けていいのか不明だが、淋しいという言葉とは無縁に見える。でも、人は見かけによらないとも言うし……。

 いや、でも早朝ヨガクラスで顔なじみの生徒さんたちと、和気あいあいと会話をしている姿もよく見るし……。
 でも、七瀬が真剣に悩む顔をしたせいか、彼は笑って言い直した。

「七瀬センセーが食事に付き合ってくれるなら、休日出勤した甲斐があったというものです」

 そう言って陣は右手を胸に当て、軽くお辞儀をする。

「陣さん、王子様みたい」
「こちらこそ、姫君にお供できて光栄です」

 軽口に笑っているうちに、さっきまで沈んでいた気分が浮揚してくるから、我ながら単純なものだ。
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