そのモラハラ彼氏、いらないでしょ? ~エリート御曹司の略奪愛
 先日の件にはなるべく触れたくないので、七瀬もそれ以上この話題を引っ張るのはやめ、話題を変えた。

「お兄さんのお店が行きつけなんて、すてきですね」
「タダ飯にありつこうとしてる卑しい根性なんですよ」
「いやいや、ちゃんと支払ってるから。人聞きの悪いことを言わないでくれないかな」

 ――こうして三門兄弟と話が弾み、勧められるがままたくさんの料理を味わった。

 先日は七瀬の話ばかりしてしまったが、今日は陣のことをいろいろ教えてもらった。
 三門兄弟は三人いて陣は末っ子、長兄の(しん)さんは陣と同じく会社勤めをしていることや、実家が文京区にあることなど。
 話してくれたのは主に潤だったが……。

 普段あまり関わりを持たない層の人たちとの話はおもしろくて、ほとんど聞き役に回っていたが、おかげで嫌なことは記憶の隅に追いやることができた。
 むしろ、隅に追いやるために必死に飲んでいたというか……。

「七瀬センセー、すこしお酒のペース早くないですか?」

 一時間が経過する頃にはすっかりリラックスしていて、口当たりのいいビールやカクテルをどんどんお代わりしていた。

「大丈夫です、私そんなに酔わないので。それに、潤さんのお店のお酒、すごくおいしくて」
「気に入っていただけて光栄です。でも、ちょっとアルコール度数を落としたカクテルにしましょうか」
「大丈夫ですって」

 真顔で答えているつもりなのだが、陣がやけに心配そうな顔をしている。

「どう見ても酔ってますよ。一旦お水にしましょうか。兄貴、チェイサー」

 水のグラスを差し出されたので大人しく飲んだが、まだカクテルグラスに半分残っていたマルガリータをこくんと飲み干した。
 ライムのさわやかさと、グラスの縁についた塩が絶妙だ。
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