そのモラハラ彼氏、いらないでしょ? ~エリート御曹司の略奪愛
「それで、ここは陣さんのご自宅――なんでしょうか」
「はい、店から近かったので。二十二時くらいまでは店で起きるのを待ってたんですけど、七瀬センセーぐっすり寝ていたし、起こしても一人で帰すのは心配で。でも、酔い潰れたのをいいことに、連れ込んだみたいになっちゃってすみません」

 そう言って苦笑する陣に、七瀬はますます小さくなった。消えてしまいたいほど恥ずかしい。

「いえ、私がごちそうするって啖呵を切っておいて、この有様。本当にもう、先日から陣さんにはみっともないところばっかり見られてて、穴があったら入りたいです。昨日の代金もお支払いします」
「いいですよ、元々七瀬センセーに払わせる気なんてなかったので。むしろ僕としては、いつも泰然自若としている七瀬センセーも、人並みに落ち込んだりあわてたりするんだと知って、逆に親近感がわきますけど。でも、そんな呑気なことを言ってられるのは、僕が無責任な外野だからですよね」

 この一連の騒動で忘れかけていたが、昨日、宗吾が見知らぬ女性と並んで歩いていたのを見て、地の底まで落ち込んでいる最中だったのだ。
 でも、そんな個人的な理由で、無関係な陣に迷惑をかけているのだ。そっちの方が七瀬には大問題である。

「それはもう、自分で解決することですので。もしかしたら浮気とかじゃなくて、何か事情があったのかしれないですし……」

 まったく自信はないけれど、そうでも言っておかなければ陣にますます心配をかけてしまうと思ったのだ。
 すると、陣はトーストを皿の上に置き、コーヒーを一口飲んで言った。

「昨日、センセーが落ちる直前に言っていた、『出張と嘘ついて女性と表参道を歩いてたのは、浮気と断定してもいいんでしょうか』という疑問ですけど、俺は問答無用で浮気と断定しますね、そんなの。まず、仕事と偽って外泊って、その時点でないでしょ。出張どころか都内にいて、百歩譲って何らかの事情があったとしても、私服で表参道。七瀬センセーが仏並みの寛容さを持っていても、許していいとは思えないですね。知ってますか、先生。仏の寛容さも、決して無限じゃないんですよ」
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