そのモラハラ彼氏、いらないでしょ? ~エリート御曹司の略奪愛
七瀬が傷ついていなければいいと気を揉んでいたとき、兄から七瀬の来店を知らされ、無我夢中で家を飛び出した。
彼女の普段のスケジュールから、土曜とはいえそんな遅い時間に青山近辺をうろついているのは不自然だったから、イレギュラーが発生したとしか思えなかったのだ。
名刺をもらっておいて本当によかった。見つけられたときは、心の底から安堵した。
七瀬には昨晩、理解ある男のフリをして、彼らの間に決着がつくまでは待つようなことを言ったが、正直なところ彼女を帰らせたいとは思っていない。
そもそもこんな高熱で、とても帰らせられるわけがない。
朝はお粥を作って食べさせ(陣が生米から作ったお手製のお粥に、七瀬がなぜか感動していた)、午後は主治医に往診に来てもらい、インフルの可能性も否定できないからと言われ、熱冷ましをもらった。
昼間もずっとうつらうつらしていたから、よほど具合が悪かったのだろう。
夜、ゲストルームに様子を見に行った時も七瀬はぐっすり寝ていたが、ふとスマホのバイブ音がしていることに気づき、部屋を見回した。
ベッドの側に置いてある、七瀬の鞄の中から聞こえてくる。
勝手に鞄をあさるのは気が引けたが、音がうるさくて七瀬が目を覚ましてしまうかもしれない。
電源を切るためにポケットの中からスマホを探し当て、画面を見たら『宗吾さん』という表示。
七瀬の恋人からの着信だったのだ。
スマホを持ってゲストルームを出た陣は、リビングのソファでもう一度スマホを見る。
一度は切れたのだが、それほど時間をおかないうちに、またしつこくかかってきた。
スマホのロックは解除できないものの、通知欄には着信履歴がずらりとついているのが見える。
「うわ……鬼着信かよ」
この着信数から想像するに、かなり面倒くさいモラハラ臭を感じた。
――昨晩、自分も七瀬のこのスマホに鬼電した事実は、この際棚に上げる。
陣が彼女のスマホを手にしてから、二度、着信を見送ったが、間髪容れずにかかってきた三度目は通話モードにした。
『――七瀬! なんですぐ出ないんだ!』
かなりの大声だったので、スマホを耳に当てていなくてもはっきり聞こえてくる。
『今日、帰って来るんだよな? 何時に帰って来る?』
宗吾の声は威圧的ではありながらも、陣の記憶にあるよりも謙ったトーンだ。どこか、様子伺いをしてでもいるようだ。
あるいは、後ろめたさを隠すために怒鳴りつけているのか。
もしかしたら、昨晩、七瀬が自宅に戻ったことに気づいているか、疑っているのではないだろうか。
彼女の性格からして、土曜のうちに帰宅することは伝えていただろうし。
『七瀬、聞いてるのか? どこにいるんだ、何時に帰ってくる!?』
陣が無言のまま聞いていると、どんどん男の声が怒気を孕んでくる。
あの小柄でかわいらしい女性に向かって、常日頃からこんなトーンなのだろうか。むかっ腹が立ってきた。
穏やかな七瀬の前にいると感化されてしまうのか、これまではやや猫を被っていた陣だが、とてもとても、非暴力だとか言っていられない。
「――悪いが、七瀬はその家に帰さない。近いうちに荷物を取りに行くから、そのつもりでいろ」
この手の男は、得てして自分より弱い者には高圧的に出るが、強そうな相手に同じ態度は取らないものだ。
意識して、低く威圧的な声で言い放つと、案の定、電話口の向こうで宗吾が鼻白んだ気配があった。
『……誰だ、おま』
ようやく絞り出したであろう声は掠れていたが、とても建設的な話し合いをする気分ではない。
最後まで聞くことなく、陣は通話終了ボタンを押し、スマホの電源を切った。
彼女の普段のスケジュールから、土曜とはいえそんな遅い時間に青山近辺をうろついているのは不自然だったから、イレギュラーが発生したとしか思えなかったのだ。
名刺をもらっておいて本当によかった。見つけられたときは、心の底から安堵した。
七瀬には昨晩、理解ある男のフリをして、彼らの間に決着がつくまでは待つようなことを言ったが、正直なところ彼女を帰らせたいとは思っていない。
そもそもこんな高熱で、とても帰らせられるわけがない。
朝はお粥を作って食べさせ(陣が生米から作ったお手製のお粥に、七瀬がなぜか感動していた)、午後は主治医に往診に来てもらい、インフルの可能性も否定できないからと言われ、熱冷ましをもらった。
昼間もずっとうつらうつらしていたから、よほど具合が悪かったのだろう。
夜、ゲストルームに様子を見に行った時も七瀬はぐっすり寝ていたが、ふとスマホのバイブ音がしていることに気づき、部屋を見回した。
ベッドの側に置いてある、七瀬の鞄の中から聞こえてくる。
勝手に鞄をあさるのは気が引けたが、音がうるさくて七瀬が目を覚ましてしまうかもしれない。
電源を切るためにポケットの中からスマホを探し当て、画面を見たら『宗吾さん』という表示。
七瀬の恋人からの着信だったのだ。
スマホを持ってゲストルームを出た陣は、リビングのソファでもう一度スマホを見る。
一度は切れたのだが、それほど時間をおかないうちに、またしつこくかかってきた。
スマホのロックは解除できないものの、通知欄には着信履歴がずらりとついているのが見える。
「うわ……鬼着信かよ」
この着信数から想像するに、かなり面倒くさいモラハラ臭を感じた。
――昨晩、自分も七瀬のこのスマホに鬼電した事実は、この際棚に上げる。
陣が彼女のスマホを手にしてから、二度、着信を見送ったが、間髪容れずにかかってきた三度目は通話モードにした。
『――七瀬! なんですぐ出ないんだ!』
かなりの大声だったので、スマホを耳に当てていなくてもはっきり聞こえてくる。
『今日、帰って来るんだよな? 何時に帰って来る?』
宗吾の声は威圧的ではありながらも、陣の記憶にあるよりも謙ったトーンだ。どこか、様子伺いをしてでもいるようだ。
あるいは、後ろめたさを隠すために怒鳴りつけているのか。
もしかしたら、昨晩、七瀬が自宅に戻ったことに気づいているか、疑っているのではないだろうか。
彼女の性格からして、土曜のうちに帰宅することは伝えていただろうし。
『七瀬、聞いてるのか? どこにいるんだ、何時に帰ってくる!?』
陣が無言のまま聞いていると、どんどん男の声が怒気を孕んでくる。
あの小柄でかわいらしい女性に向かって、常日頃からこんなトーンなのだろうか。むかっ腹が立ってきた。
穏やかな七瀬の前にいると感化されてしまうのか、これまではやや猫を被っていた陣だが、とてもとても、非暴力だとか言っていられない。
「――悪いが、七瀬はその家に帰さない。近いうちに荷物を取りに行くから、そのつもりでいろ」
この手の男は、得てして自分より弱い者には高圧的に出るが、強そうな相手に同じ態度は取らないものだ。
意識して、低く威圧的な声で言い放つと、案の定、電話口の向こうで宗吾が鼻白んだ気配があった。
『……誰だ、おま』
ようやく絞り出したであろう声は掠れていたが、とても建設的な話し合いをする気分ではない。
最後まで聞くことなく、陣は通話終了ボタンを押し、スマホの電源を切った。