そのモラハラ彼氏、いらないでしょ? ~エリート御曹司の略奪愛
 彼女の恨み節を白々しい思いで聞いていたが、被害者意識が強くて、明らかに宗吾を悪者と決めつける態度が冷笑ものだった。

「……それって、被害者ヅラ?」

 そう告げたら、心底驚いた顔をした七瀬が、思わずといった感じで顔を上げてこちらを見た。

「だいたいさ、誰のせいだと思ってんの? 朝は起きたらいない、夜は帰ってきたら寝てる。自分だけ作りたてのあったかい飯食って、俺には冷や飯だけ置いていってさ。弁当も作らないし、ろくに家事もしないで遊びまわってる七瀬に、俺のやることを干渉されたくないんだけど? それに『私たちの家』って、俺の家に転がり込んできただけの居候の自覚ないの? 七万ぽっちのはした金で恵比寿に住まわせてやってるのに、ずいぶん上からだな」
「…………」

 今にも泣き出しそうな顔をする七瀬に、ますます苛立ちを感じた。都合が悪くなると、こうやって情に訴えてくる女が心底嫌いだ。

「泣けば許されるとでも思ってんの? そう言うおまえだって、男がいるんだろ? 名古屋出張だって嘘ついて、実際は男の家に転がり込んでるくせに。クソみたいな最低女だな」

 冷笑してやると、七瀬は目に涙をためた。

「……宗吾さん、私のこと、ずっとそう思ってたの?」
「え、なに? 自分の行いは棚に上げて、俺一人が悪者なんだ? おまえみたいな女、反吐が出るわ」

 沈んだ表情の七瀬を見ていたら苛立ちが最高潮になる。宗吾は飲みかけのグラスを手に取ると、腹立ちまぎれに中のビールを七瀬にかけようとした――そのとき。
 背後からいきなり手首をつかまれて、グラスを手から取り上げられる。

 驚いて振り返ると、後ろの席にいた男が立ち上がり、宗吾の手を締めつけるほどの力でつかんでいたのだった。
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