そのモラハラ彼氏、いらないでしょ? ~エリート御曹司の略奪愛

第24話 彼の言い分

 背後から突然、陣に手首をつかまれた宗吾は、驚愕に目を見開いていた。
 最前まで、言葉を返せずにいる七瀬を冷笑しながら見下ろしていたのに、顔面蒼白で陣を見上げる格好になった。

「陣さん……」

 七瀬がこれまでに見たこともない怒りの表情をひらめかせる陣は、今にも宗吾を殴り飛ばしそうな勢いだったのだ。七瀬は思わず腰を浮かせていた。

 今日、ここで宗吾と話をすることに決めたが、二人きりで会うのは危険だからと陣に止められ、潤の許可を得て『Vintage Voltage』店内に彼を呼び出したのである。

 陣は立ち合いを申し出てくれたが、第三者の異性を連れて行ったら、宗吾には席にも着いてもらえないだろう。七瀬の友人ですら、同席するのを極端に嫌がる人だから。
 かといって、完全に二人で話すのも心細い。
 なので陣には、七瀬の視界に入る場所で待機してもらうことにした。それが、宗吾の後ろの席。
 七瀬からは宗吾の向こうに陣の広い背中が見えているので、恐怖もだいぶ和らいでいた。
 ただ、彼はあくまでそこにいるだけで、手出し口出し一切無用と決めていたのだが……。

 陣は眉間に険しい皺を刻み、宗吾の手からグラスを取り上げた。

「ごめん、七瀬さん。とても黙って聞いてられない」

 宗吾が次々に浴びせてくる言葉の奔流に、陣の方が耐えかねてしまったようだ。

「それが恋人にかける言葉なのか? どっちが最低だ。自分の行いを棚上げして被害者気取ってるのはおまえの方だろう!」
「なんだおまえ」

 宗吾は最初のショックが過ぎ去ると、陣の手を振り払って立ち上がった。
 近距離でにらみ合う二人の青年に、七瀬の方が冷や冷やする。

「あ、あの、お店の中なので――!」

 あわててフォローを入れると、陣は七瀬のところまでやってきて隣に少々荒っぽく腰を下ろす。そして腕を組んで宗吾を睨み上げ、言った。

「俺は七瀬センセーの生徒だ」

 表情はとても怒っているのに、陣の自己紹介に七瀬は思わず吹き出しそうになってしまった。
 今の今まで緊張感に満ち、恐怖で心が折れそうになっていたというのに……。
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