そのモラハラ彼氏、いらないでしょ? ~エリート御曹司の略奪愛
十三時に、帝鳳本社の会議室にやってきたのは、アストラルテックソリューションズの水瀬社長、五百旗頭本部長とシステム管理部の大野部長、問題の新卒社員――大楠沙梨だった。
(これが、朝倉宗吾の浮気相手か……)
大楠沙梨は、いかにもデキる女風のメイクに髪型、パンツスーツも隙がない。
美人だが、気が強そうなところが今は鼻持ちならない。帝鳳本部の上層部に囲まれても、ふてくされたような表情を崩していなかった。
大楠沙梨は不満顔をしてはいたものの、月曜日に上司からこってり絞られ、こちらのヒアリングには素直に応じていた……というよりも、年かさで恰幅のいい情報セキュリティ部長のヒアリングには完全に開き直っていたが、陣がやわらかい声音と口調で問いかけたら、すんなり答えてくれた。
若い女性社員をおっさんたちで取り囲んでも、お互いに建設的ではない。下手すればパワハラセクハラ呼ばわりされる危険がある。
帝鳳の上層部には女性役員もいるが、あいにくと今回の件で担当できる人材がいなかった。女性役員をもっと増やしていかなければならない。
この中では同じ若者属性に振り分けられる陣に、助けを求める気持ちもあったのだろう。
だが、沙梨が目をうるうるさせながら、陣にだけ同情を誘うような口調で話すのがちょっと気持ち悪かった。
あの目で縋られたら、味方になっちゃう男もいるのかもしれない。
そして、彼女のヒアリングの一時間後に呼ばれたのが――。
「……なんで」
グループ本部の会議室で上席に座っている陣を見て、宗吾が愕然としている姿が印象的だった。
彼は陣に向かって「おまえ」と言いかけたが、咄嗟に周囲を見回して口を噤んだ。
グループ本部の錚々たる顔ぶれの中で、いかにも上役然としている陣におまえ呼ばわりはできないだろう。
沙梨が一緒に年末旅行するという件の彼氏が、デジタルイノベーション部マネージャー、朝倉宗吾だ。
月曜日に『Vintage Voltage』で宗吾とやり合ったとき、彼が途中で電話で呼び出されたのがこの件だった。
宗吾が電話口で「五百旗頭本部長」と言っていたのが、陣の耳に残った。
アストラルテックにそんな珍しい名前の本部長がいるのを、もちろん陣は知っている。だから気になって、七瀬に彼の勤務している会社名を確かめたのだ。
その直後に拓馬から電話があって、アストラルテックで発生したイレギュラーを知ることになった。
七瀬にはこっそり「彼、会社で大ポカやらかしたみたいだよ」と耳打ちしたが、それ以上の詳細は語らなかったし、同棲のことに話題をシフトさせたので、彼女も何が起きたのか知らないでいる。
昨日の宗吾は、社としての対応方針が決まるまでの自宅待機だった。だから私服で七瀬の前に現れたのだ。
「お疲れ様です、朝倉マネージャー。帝鳳ホールディンググループ専務取締役、三門です。事情はアストラルテックの水瀬社長から共有を受けていますが、改めてお話を聞きたくお呼びしました。どうぞ、おかけください」
自己紹介すると、宗吾の表情はなんとも形容しがたいほどに歪み、その場に凍りついていた。
三門と言えば帝鳳の創業家で、子会社社員なら当然、三門会長の名も知っているはずだ。
宗吾はきっと、この場を逃れる方法をいくつも考えてきたはずだが、陣の顔を見た瞬間、すべての思惑が吹っ飛んでしまったことだろう。
決して敵に回してはならない相手を敵にしたのだから――。
(これが、朝倉宗吾の浮気相手か……)
大楠沙梨は、いかにもデキる女風のメイクに髪型、パンツスーツも隙がない。
美人だが、気が強そうなところが今は鼻持ちならない。帝鳳本部の上層部に囲まれても、ふてくされたような表情を崩していなかった。
大楠沙梨は不満顔をしてはいたものの、月曜日に上司からこってり絞られ、こちらのヒアリングには素直に応じていた……というよりも、年かさで恰幅のいい情報セキュリティ部長のヒアリングには完全に開き直っていたが、陣がやわらかい声音と口調で問いかけたら、すんなり答えてくれた。
若い女性社員をおっさんたちで取り囲んでも、お互いに建設的ではない。下手すればパワハラセクハラ呼ばわりされる危険がある。
帝鳳の上層部には女性役員もいるが、あいにくと今回の件で担当できる人材がいなかった。女性役員をもっと増やしていかなければならない。
この中では同じ若者属性に振り分けられる陣に、助けを求める気持ちもあったのだろう。
だが、沙梨が目をうるうるさせながら、陣にだけ同情を誘うような口調で話すのがちょっと気持ち悪かった。
あの目で縋られたら、味方になっちゃう男もいるのかもしれない。
そして、彼女のヒアリングの一時間後に呼ばれたのが――。
「……なんで」
グループ本部の会議室で上席に座っている陣を見て、宗吾が愕然としている姿が印象的だった。
彼は陣に向かって「おまえ」と言いかけたが、咄嗟に周囲を見回して口を噤んだ。
グループ本部の錚々たる顔ぶれの中で、いかにも上役然としている陣におまえ呼ばわりはできないだろう。
沙梨が一緒に年末旅行するという件の彼氏が、デジタルイノベーション部マネージャー、朝倉宗吾だ。
月曜日に『Vintage Voltage』で宗吾とやり合ったとき、彼が途中で電話で呼び出されたのがこの件だった。
宗吾が電話口で「五百旗頭本部長」と言っていたのが、陣の耳に残った。
アストラルテックにそんな珍しい名前の本部長がいるのを、もちろん陣は知っている。だから気になって、七瀬に彼の勤務している会社名を確かめたのだ。
その直後に拓馬から電話があって、アストラルテックで発生したイレギュラーを知ることになった。
七瀬にはこっそり「彼、会社で大ポカやらかしたみたいだよ」と耳打ちしたが、それ以上の詳細は語らなかったし、同棲のことに話題をシフトさせたので、彼女も何が起きたのか知らないでいる。
昨日の宗吾は、社としての対応方針が決まるまでの自宅待機だった。だから私服で七瀬の前に現れたのだ。
「お疲れ様です、朝倉マネージャー。帝鳳ホールディンググループ専務取締役、三門です。事情はアストラルテックの水瀬社長から共有を受けていますが、改めてお話を聞きたくお呼びしました。どうぞ、おかけください」
自己紹介すると、宗吾の表情はなんとも形容しがたいほどに歪み、その場に凍りついていた。
三門と言えば帝鳳の創業家で、子会社社員なら当然、三門会長の名も知っているはずだ。
宗吾はきっと、この場を逃れる方法をいくつも考えてきたはずだが、陣の顔を見た瞬間、すべての思惑が吹っ飛んでしまったことだろう。
決して敵に回してはならない相手を敵にしたのだから――。