そのモラハラ彼氏、いらないでしょ? ~エリート御曹司の略奪愛
第32話 窮鼠、猫を噛み……
明らかに顔色が悪くなった宗吾に、グループ本部長が報告内容を淡々と告げ、間違いないか確認していく。
だが、宗吾は聞いているのかいないのか、放心して一点を見つめたままだった。
恋人をめぐって対立している男が、まさか自分の会社の上層部の――創業家の人間だったなんて、陣が逆の立場だったら、絶対に経験したくないとは思う。
ここは仕事の場なので個人的な事情はおくびにも出さないが、七瀬という恋人がありながら、年末に大楠沙梨と旅行するというクソな計画に、はらわたが煮えくり返ったのは言うまでもない。
もっとも、そのおかげで七瀬を恋人にすることができたのだから、陣としても胸中は複雑だ。
「……大楠さんは、ネットワークの設定変更をかけられる管理者権限を持っておらず、朝倉マネージャーのアカウントを使ってログインしたとのことですが、彼女にパスワードを教えたのですか?」
「いえ……」
「大楠さんは朝倉マネージャーから教わったと言っていましたが、違うと言うのなら、なぜ彼女がパスワードを知っていたのでしょう」
「それは……わかりませんが、ソーシャルエンジニアリングを使って取得した可能性も……」
あえてカタカナ語を使い、こちらを混乱させようとしているのだろうか。だとしたら、さすがに舐められすぎだろう。
本部長に代わって、陣が身を乗り出す。
「つまり、彼女が朝倉マネージャーの心理や行動を利用して、情報を引き出した、と?」
たとえば、信頼できる同僚や管理者を装ったメールを送信し、ログイン情報を入力するように促すフィッシングだったり、肩越しののぞき見などなど、方法はさまざまだが、相手の信頼を得て情報を引き出す手法のことだ。
だが、宗吾は聞いているのかいないのか、放心して一点を見つめたままだった。
恋人をめぐって対立している男が、まさか自分の会社の上層部の――創業家の人間だったなんて、陣が逆の立場だったら、絶対に経験したくないとは思う。
ここは仕事の場なので個人的な事情はおくびにも出さないが、七瀬という恋人がありながら、年末に大楠沙梨と旅行するというクソな計画に、はらわたが煮えくり返ったのは言うまでもない。
もっとも、そのおかげで七瀬を恋人にすることができたのだから、陣としても胸中は複雑だ。
「……大楠さんは、ネットワークの設定変更をかけられる管理者権限を持っておらず、朝倉マネージャーのアカウントを使ってログインしたとのことですが、彼女にパスワードを教えたのですか?」
「いえ……」
「大楠さんは朝倉マネージャーから教わったと言っていましたが、違うと言うのなら、なぜ彼女がパスワードを知っていたのでしょう」
「それは……わかりませんが、ソーシャルエンジニアリングを使って取得した可能性も……」
あえてカタカナ語を使い、こちらを混乱させようとしているのだろうか。だとしたら、さすがに舐められすぎだろう。
本部長に代わって、陣が身を乗り出す。
「つまり、彼女が朝倉マネージャーの心理や行動を利用して、情報を引き出した、と?」
たとえば、信頼できる同僚や管理者を装ったメールを送信し、ログイン情報を入力するように促すフィッシングだったり、肩越しののぞき見などなど、方法はさまざまだが、相手の信頼を得て情報を引き出す手法のことだ。