『あなたを愛することはございません』と申し上げましたが、家族愛は不滅ですわ!
彼女の更なる大音声に、彼の鼓膜がぶるりと震えた。しかし彼女は、夫の迷惑顔なんて気にせずに話を続ける。
「声が小さくて相手に聞こえない、というのは言ってないのと同じなのですわ! だから、挨拶は元気よく! 一日の始まりですから!」
「……」
ハロルドは話が通じない妻に辟易して、側にいる執事長と侍女長をじっと見た。
「おい……。妻を公爵夫人らしく、躾なおしておけ」
そして顔を近付け、凄みながらボソリと言う。それは脅迫だった。
執事長は困ったように眉尻を下げて、諦念の混じった枯れた声で返す。
「旦那様……お言葉ですが、もう手遅れでございます」
隣にいる侍女長もうんうんと深く頷いていた。
二人は、婚姻の準備の段階からキャロラインと関わっていて、彼女の性格を既に知っていたのだった。そんな彼らから見て、もう……無理だった。
二人の表情を見て、ハロルドは察する。そしてため息混じりに「行ってくる」とげんなりと玄関ホールを出た。
「旦那様ぁ〜! 今日もお仕事頑張ってくださいませ〜〜!」
「うるせぇっつってんだろ!!」
馬車に乗ったハロルドに、後悔の大波がどうと降りかかった。
(私は……本当に選択を間違えたのかもしれない…………)