『あなたを愛することはございません』と申し上げましたが、家族愛は不滅ですわ!

 やられた、とキャロラインは小さく舌打ちをした。
 あの採寸の日、乳母は大人しく引き下がった。しかも殊勝なことに採寸の手伝いまでしていた。
 きっと、その時に一本盗んだのだろう。

「物的証拠ってやつねぇ」と、キャロラインは聞こえないくらいに小さく呟いた。

 女主人が黙り込んだ姿を見て、バーバラはしてやったりと口元を歪ませて笑う。

「そもそも、公爵家には正式に契約をしている仕立て屋がおります。なのに、わざわざ奥様のご実家から連れて来るなんて……」

 彼女はわざとらしく口を噤んで、またまた大きなため息をついた。

「……何が言いたいんですの?」

「いえ。ただ一般論を申し上げますと、このような場合はしばし不穏な動きがあるようですね。たとえば、特別な恩恵とか……?」

「そんなに気になるのなら、帳簿をご覧になって?」

 キャロラインはニッコリと笑ってみせた。バーバラも応えるように口角を上げる。
 でも、二人とも目は笑っていなかった。
 緊迫した沈黙が続く。剣呑な空気は消えなくて、レックスの背中にぶるりと寒気が伝った。

「――ま、確かに、公爵夫人としての責任は取らなければなりませんわね」

 ややあって、キャロラインが口火を切る。バーバラは「勝った」と、心の中でガッツポーズをした。

「故意ではないようですが、まち針が残っていたのは事実……。こちらの仕立て屋は、今より半年間は公爵家の出入り禁止。いいですわね?」

「しょっ……承知いたしました!」

「私も、その処分でよろしいかと」

 バーバラは満たされた気持ちでいっぱいだった。自分が新しい女主人を制したのだ。
 これは、今後の屋敷内での力関係に大いに影響するだろう。この調子で追い詰めて、前の妻たちと同様に公爵家から追い出すのだ。

(屋敷の本当の女主人は乳母の私よ……)

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