『あなたを愛することはございません』と申し上げましたが、家族愛は不滅ですわ!

「っ……」

 なんだか命令されているようで(かん)(さわ)ったハロルドだったが、ひとまず当初の目的は果たしたので部屋を出ることにした。

 今の二人の距離を表すかのように、バタリと大きく音を立てて扉が閉まる。その重い音が、彼をさっさと追い出しているように感じて不快だった。

(これでいい……)

 ハロルドは自分に言い聞かせるように頷く。最初から期待させないほうが賢明なのだ。政治的な思惑で結ばれた二人は、政治的な役割を果たすのみだ。

 そんなことを考えながら自室へ向かっていると、

 ――ドン!

 と、さっき彼が閉めたよりも大きな音を立てて、キャロラインの部屋の扉が勢いよく開いた。

 そして、

「旦那様ぁ〜〜〜! 今夜の約束、決してお忘れになりませんことよぉ〜〜〜っ!!」

 彼の妻は、馬鹿デカい声で言ってきた。

「なっ……!」

 ハロルドは少しだけ放心状態になった後、はっと我に返ってドタドタと妻の元へ戻った。

「大声を出すなっ! もう深夜だぞっ!」

「念のための確認ですわ。わたくし、実は心配性ですの」

「うるせーっ!!」

 バタンッ、と彼は叩き付けるように扉を閉める。板の向こうで「ぎゃんっ!」と声がした気がしたが、無視をした。

 一刻も早くアレ(・・)から離れたくて、早足で自室に戻る。

(くそっ!)

 とんでもない女を呼び込んでしまったかもしれない。
 冷静沈着で怜悧なハロルドは、生まれて初めて己の浅慮さを責めた。

(私は……選択を間違ったのかもしれない……)

 これが、ハーバート公爵家の『家族』の始まりだった。
 

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