『あなたを愛することはございません』と申し上げましたが、家族愛は不滅ですわ!
「「すごーーいっ!!」」
子供たちも、メイドも、驚愕の表情でパチパチと拍手をした。
――テーブルクロス引き。
キャロラインが聖子時代に習得した一発芸の一つだ。
勢いをつけてスピードを上げてテーブルクロスを動かすことによって、なんやかんや物理法則が働いて、テーブルの上の食器は少しも動じない……とにかく凄い技なのである。
「ご鑑賞、ありがとうございましたですわ」
キャロラインは勿体ぶった態度を崩さず、澄ました顔で再び一礼をしたのだった。ドヤァ!
「おかあさま、すごーい!」
「ど、どうやったのよ!? なにが、おこったの?」
継母の偉業(?)にすっかり興奮した子供たちは、鼻息を荒くしてきゃいきゃいと駆けて来た。
すっかり気を良くしたキャロラインは、
「これは秘技『テーブルクロス引き』ですわ。わたくしの、芸事の一つですの」
まだドヤ顔のままで答えた。
「おかあさまって、いろんなことができるんだね! すごーい!」
「ねぇ、どうやったの?」
「この世界には物理や摩擦という法則があって、色々と凄いことができるのよ」
「は? イミわかんない」
「もっとお勉強をしたら、いつか解るようになりますわ。だから、二人とも一緒にお勉強を頑張りましょうね」
とは言ったものの、キャロライン自身も仕組みをよく分かっていなかった。
「ぼくもやりたい!」
「あたしも……あたしはべつに」
ロレッタははっと我に返る。この女に心を開いては駄目だった。乳母からもきつく言われているのだ。
「では、お継母様と一緒に練習をしましょう〜!」
「わ〜い!」
「あたしはいいわ。アホくさ」
キャロラインはメイドに子供サイズの小さなテーブルを用意させて、それからレックスとの特訓を始めたのだった。彼は最初はおっかなびっくり引いていたが、だんだんと慣れてくると手際よくできるようになった。
そんな二人の様子をロレッタは「ガキくさいわね」と冷めた目で見ていたが、結局最後まで付き合っていたのだった。
しかし、楽しい時間は、この後の悲劇の元凶となってしまう……。