『あなたを愛することはございません』と申し上げましたが、家族愛は不滅ですわ!



「伯爵夫人は、これまでの妻も、同様に追い出したそうだな」

 ハロルドの怒りの孕んだ無機質な声が響いた。
 彼の隣には、硬い表情のキャロライン。そして執事長や侍女長、屋敷の使用人たちが勢揃いだった。

 双子の溶体が落ち着いて、これから乳母バーバラ・スミス伯爵夫人、および協力者たちの断罪がはじまるのだ。

「それはっ……」

 バーバラと数人彼女の取り巻きたちは、冷たい床に座らせていた。まだ暖かいのに爪先から凍っていくようだ。

「全く……。子供たちが生まれた時からの乳母だからと、私は信じすぎたな」と、ハロルドは少しだけ目を伏せる。乳母たちの横暴を助長させたのは、他でもない自分自身なのだと彼は心から己を恥じた。

 彼は心の(おり)を振り切るように、まっすぐに前を見つめる。
 反省するのはまだ早い。今は、この不祥事を片付けなければ。

「横領の証拠もある。お前たちは、子供たちの予算を随分使い込んでいたようだ。キャロラインが予算を譲渡してくれたおかげで、追いやすかったよ」

「なっ……!」

 バーバラはにわかに顔を上げてキャロラインを睨み付けた。

「わたくしを打ち負かしたと油断しましたわね」と、彼女は不敵に笑う。「でも、いけませんことよ? 金額が大きくなると、人はだんだんと麻痺してきますものね」

「わっ……私を泳がせていたのか……!」

 乳母はがくりと(こうべ)を垂れた。全ては公爵夫人の計画のうちというわけだ。声がデカいだけの、頭の弱い小娘だと思って完全に油断をしていた。
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