『あなたを愛することはございません』と申し上げましたが、家族愛は不滅ですわ!
屋敷の三階まで届く巨体。広げた翼は庭を包み込むように広く、牙と爪も人間の大きさほどあって、「恐ろしい」としか形容しようのない姿をしていた。
ドラゴンは、キャロラインの瞳をまっすぐに捉える。
「我の名は、ジークフリード・タンホイザー・ゲオルグ・ヴォルフガング・キャロリング・ノーヴァ。時空を司る者」
「時空……」
ドクン、とキャロラインの脈が跳ねる。カチカチと無数の時計の秒針の音が、彼女を包みこんだ。
時空――時間と空間。異世界転生と繋がりがあるのだろうか。
彼女がしばし真面目に思案していると、ドラゴンはふっと口角を上げて笑った。
「お前の想像通りだ。我は――」
次の瞬間。
――ぽんっ!
巨大なドラゴンは、元の猫サイズの大きさに戻った。
「チッ」彼は悔しそうに舌打ちをする。「今は1分しか元の姿に戻れんのだ」
「なぜですの?」
「お前のせいだ、馬鹿者!」
――ぺちん!
「きゃんっ!」
またぞろ彼の尻尾アタックがキャロラインのおでこに直撃した。
「簡潔に言うと、我は時空の狭間で眠っていた。だがお前に強制的に起こされた。そしてお前の為に力を失い、気付くとこの世界にいた。すると、お前が我を丸焼きにして食おうとしたのだ! たわけが!」
「お前……。伝説のドラゴンを食べようとしたのか?」
ハロルドの冷ややかな視線がキャロラインを射抜く。ドン引きである。
ドラゴンは神聖な存在で、神に等しいのだ。その肉を食するなんて……。
「だ、だって……お子たちにおタンパク質を取らせたかったんですもの。丁度良いお肉だったのですわ!」
ハロルドは「うわぁ……」と顔をしかめて、妻から一、二歩離れた。
ドラゴンも少しキャロラインを白い目で見てから、
「そういうことだ。お前、責任を取れ。我が力を取り戻すまで面倒を見るのだ」
「えっ……!? それは、どうやって……?」
「簡単なことだ。我に食事と寝床を与えて、もてなすのだ」
キャロラインはほんの少しだけ目をぱちくりさせてから、
「なぁ〜んだ!」
合点したようにポンと手を叩いた。
「つまり、わたくしがおドラゴン様を飼えば良いのですね!?」
「飼うっていうな」