『あなたを愛することはございません』と申し上げましたが、家族愛は不滅ですわ!


「そうですね、我々は王族の方とは違いますね。私のような者は下級貴族と婚姻を結ぶような度胸はありませんので」

 だがハロルドも負けていない。
 妻のことを侮辱した者は、たとえ己より身分が上でも許すつもりはなかった。

 二人の間に火花が散った。思いも寄らぬ見世物に、周囲の貴族たちは色めき立つ。
 キャロラインはどうしたら良いか分からなくて、ただおろおろとパートナーを見つめいているだけだった。

「はっ。妻も妻なら夫も大概(たいがい)だな」

 口火を切ったのはスティーヴンだ。
 彼は今日は絶対に負けない自信があった。なぜなら、正義はこちらにあるのだから。過去の事実(・・)を覆すことはできない。

「お前の妻には、まだ過去の無礼に対する謝罪を受けていないな」

「過去の無礼とは何でしょう?」

「やれやれ。夫が妻の悪事も知らないとは」

 スティーヴンは「びしぃっ!」と大仰にキャロラインを指さしてから、

「いいか、そこの女は私の婚約者であるナタリー・ピーチ男爵令嬢に対して、数々の嫌がらせをおこなってきた。未来の王族に対して、あるまじき行為だ」

「令嬢はまだ王族ではありません。ただの男爵位の娘です」

「だが今日からは正式に私の婚約者だ。公爵夫人より明らかに位が上だろう?」

「たしかに今夜は――」

 ハロルドが反論しようとすると、キャロラインが彼の袖をぎゅっと強く引っ張った。
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