それらすべてが愛になる
 メールを何通か返信し終わったタイミングでドアがノックされ、唯崎が入ってきた。

 「お疲れ様です、資料見ましたか?」

 「あぁ見た。よく手に入れられたな」

 「一応まだオフレコにしておいてください、向こうも渋々だったので」

 唯崎はデータ分析だけではなく、意外にも交渉術に長けている。
 前職で培った知識とコネ、ノウハウをフル活用し、交渉に使う『武器』をあらゆる方面から取り揃えていて、唯崎に肩を叩かれたら逃げられないと一部では囁かれている。

 「まぁ、副業もほどほどにな」

 「分かっています。で、スタートアップの件ですが、窓口が法務のM&A担当になっているだけで話を持ってきたのは事業推進部でした。倉科課長がかなり推していて、社長にもそれとなく進言しているとか」

 「ったく、よそから取ってくることしか能がないからなあいつ」

 積極的に投資や事業拡大に打って出たい事業推進の方針は理解できるものの、慎重にならざるを得ないこともある。
 経営企画と事業推進はそういった面で衝突することも多い。

 特にここ最近は洸と、一つ上の倉科公貴《くらしなきみたか》課長との間にはピリピリした空気が漂っていた。

 「少し調べましたが、第一候補の企業は業界では業績も評判も悪くありません。うち以外にもいくつか声を掛けているようですが、こちらの企業規模が大きいので感触はいいみたいです」

 おそらく第一四半期の決算と、第二四半期の予測結果が良く、今年全体の見通しが楽観的になっているせいもあるだろう。

 ただそれはあらゆる部署が頑張って利益を上げている結果であり、それらを無為に吐き出すことは看過できない。

 「分かった、俺の方でも調べておく」

 「お願いします」

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