それらすべてが愛になる
 いつもなら話が終わるとすぐに出ていく唯崎が、こちらを見たまま立っている。

 洸が顔を上げると、昨日の件ですがと唯崎が切り出した。

 そこで唯崎が清流の何気ない発言に対してフォローを入れたことを聞かされて、やっぱりな、と内心で呟いた。酒の席ではどうしたって気が緩む。

 「あと、まだ終電がある時間でしたが、タクシーを使うよう説得して帰ってもらいました」

 「悪かったな、めったに飲み会は参加しないのに」

 「それはいいのですが…婚約者というより保護者のようですね」

 心なしか面白そうな声音で唯崎が言う。

 「ただ婚約者ということでしたけど、工藤さんにそのつもりはなさそうでしたが」

 「そんな話までしたのかよ」

 「残念ながら脈なしですね、ご愁傷様です」

 「お前、絶対面白がってるだろ」

 それはどうでしょう、と含みを持たせた表情で薄く微笑んだ。
 その顔を見て、洸は唯崎に話したのは間違いだったかもしれないという考えが一瞬だけ頭をよぎる。

 「それでは失礼します」

 デスクを背に出ていく、少しヨレたスーツの背中を見送って、洸はため息を漏らして席を立った。

 ブラインドの隙間を指で開いて、ガラスパーテーションから課内を眺める。

 もうすぐ昼休みが終わる時間だが、清流はまだ席に戻っていなかった。

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