それらすべてが愛になる
 洸たちがそんな会話をしている頃、清流はフロアの給湯室の側から動けずにいた。

 原因は、ランチから戻り化粧直しへ行く未知夏と別れて、給湯室の前を通ったときに聞こえた女性社員たちの会話だ。


 「経営企画の加賀城部長、婚約したらしいって聞いたんだけど何か知ってる?」


 来客用の湯呑みを出しお茶を淹れる用意をしながら話す様子から、秘書課の社員のようだった。

 さっさと前を通り過ぎればいいのだけれど、清流は会話の行方が気になってつい立ち止まってしまった。

 「えー嘘!?それ本当なの?やっぱりどこかのご令嬢?」

 「前にも銀行の重役の娘とか噂はあったわよね」

 「さぁ、婚約したって話だけで相手は分からないみたいで。むしろ私の方が何か知らないかって聞かれたくらいだもの」

 彼女たちは役員クラスの秘書だ。
 もしかしたら社長経由で、他の役員に話が漏れ伝わっているのかもしれない。

 洸との取り決めで、婚約者の存在だけは公にすることは了解していたのだからここまでは問題はない。
 自分の名前が上がらなかったことにひとまずほっとしつつ、実際に話を間近で聞くのは何とも言えない妙な気分だった。

 「槙野さんにこっそり聞いてみたら?」

 「無理ですよ!槙野さん口固いし、そもそもほとんどオフィスにいないじゃないですか」

 そんな話をしながら三人が給湯室を出てくる気配がして、清流はその場から足早に立ち去った。


 半年後に自分との関係が終わったら、洸はどうするのだろう。
 婚約破棄したことにするのか、噂はそのままに、他の別の女性を見つけるのだろうか。

 そんな取り留めのないことを考えていると、曲がり角で誰かとぶつかりそうになった。

 「す、すみません!」

 「いや、こちらこそすまない」

 相手も少し急いでいたようで、申し訳なさそうに謝られる。
 お互いに顔を見合わせると、相手の男性は何かに気がついたような顔をした。

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