それらすべてが愛になる
 清流はしゃがんで、置かれている鉢植えを一つ一つ見ていく。

 バジルにミント、ローズマリーなど、ハーブだけでも種類が豊富だ。洸も興味深そうに鉢植えを眺めている。

 「もし育てるとしたら、どれがいいですか?」

 「いいよ、清流の好きなやつで」

 「ちゃんと選んでくださいよ、私があの家を出た後は加賀城さんがお世話するんですから」

 観賞用としても映えそうなミントがいいかもしれない。
 そう思って鉢植えを取ろうと伸ばした腕が、不意に突然掴まれた。

 「えっ?」

 清流は驚いて、洸の顔を仰ぎ見る。

 掴まれた手は痛くない。
 けれど簡単には振り払えないような、そんな力があった。

 「出ていくのか?」

 怒りは含んでいない、むしろいつも通りの落ち着いた声。
 けれど、何かが違う。

 「…あの、」

 「出ていくのか?」

 もう一度同じことを、今度は少し強く聞かれる。
 その顔が思い詰めているように見えて、思わず息を呑む。

 「……出て、行かないです」

 どのくらいの間、そうしていただろう。

 清流の答えを聞いた洸は、張り詰めた空気が嘘のように笑う。
 そして、これにするか、と清流が取ろうとしたミントの鉢植えを持って行ってしまった。

 (そうです、半年の試用期間が終われば出て行きますから)

 (私、初めからそう言ってましたよね?)

 いつも頭の中で考えていたこと。
 それなのに、なぜか口から出たのは否定の言葉だった。

 (私、何で…)

 すみませんこれも追加で、と洸がトルコキキョウと一緒に会計をしている声を、清流は遠くのことのように聞く。

 「清流」

 洸にそう呼ばれることにも、いつしかすっかり慣れてしまった。

 振り向くと、夕方の柔らかい太陽の光が洸の整った髪を照らしていて、一層明るく見せている。その髪が柔らかいくせ毛で毎朝横髪がはねていることを、清流はよく知っていた。

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