それらすべてが愛になる

9. In vino veritas

 工藤清流が経営企画課に配属されて、二ヶ月が過ぎた頃。

 その日、経営企画課の空気はいつになくピリついていた。

 (まあ、原因はあの人だよねえ…)

 舞原は自分の真正面に座る清流にそっと目を向ける。
 その隣りでは、同じパソコン画面を覗き込む事業推進部の倉科課長の姿があった。

 「えーっと、ではこの議題の内容をこちらに差し替えでいいですか?」

 「あぁ、部内での優先順位が変わったから変更したい。役員会議の方の調整も頼みたいんだが」

 週一で開催されている役員会議のアジェンダを組んで、時には資料作りを手伝うのも経営企画の仕事だ。
 以前は舞原が議事録と合わせて担当していたが、今はすべて清流に任せられている。

 「分かりました、アジェンダの調整ができるか確認してみますね」

 倉科課長の言葉を受けて、清流がメモを取ってから内線をかける。

 今回のように、直前になって議題の変更や追加を持ち込まれると少し厄介だ。
 参加者は多忙な役職者ばかりで決められた会議時間を伸ばすのは難しく、他の発表者と調整して時間を捻出しなければならない。舞原はこの調整が毎回憂鬱だった。

 電話先で折衝を続ける清流に心の中でエールを送りつつ、舞原はガラスパーテーションへと視線を移す。

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