それらすべてが愛になる
 ◇◇◇◇

 昼前の会議室に、経理部マネージャーの声が滔々と響いている。

 洸は回覧されてきた『削減目標』と書かれた資料をめくり目を通すと、隣りの営業部部長に回した。それを見て顔をしかめる様子に洸は同情の視線を送る。

 経費削減の鬼と称されるこのマネージャーは、販促費、広告費、出張費などを何かと減らそうと画策してくる。
 もちろん無駄は減らすべきだが、そのほとんどは営業が戦略として先手で仕掛けているものだ。
 ただ、すぐに利益に結びつくものばかりではないため、営業部が槍玉に上げられる傾向が強い。

 さっそく営業部の部長が手を挙げて反論するのを見て、これは荒れそうだなと心の中で呟く。

 朝から会議続きで、自分のタスクは何も進んでいない。

 内職しても咎める人間などいないが『他の作業してるのって意外とバレますから気をつけた方がいいですよ』と、頭の中で以前言われた忠告が聞こえてくる。

 (本当にあいつ、言うようになったよな)

 予定表の確認ぐらいいいだろう、とタッチパッドの上で指を滑らせる。
 この後は十四時半に外出の予定が入っている。このアポも清流が取ったものだ。

 『お前な、夏の十四時台って一番暑い時間帯だぞ』

 『その時間しか空いてなかったんだから仕方ないじゃないですかっ』

 加賀城さんが忙しすぎるのがいけないんです、と清流としたやり取りを思い出して思わずふっと笑いが漏れた。

 最近の洸の思考には、こうしてときどき清流が登場する。
 清流が宿泊研修へ行ってからはそれがより顕著になった気がしていた。

 清流が参加している研修は洸も若手社員だった頃に参加した。
 今もカリキュラムが同じかは分からないが、チーム競争型で順位付けも行われるため、最終日に向けてやや殺伐とした雰囲気だった記憶がある。

 清流の性格だとグループワークではチーム内の調整役に回りそうだな、と上手くやれているか気になりつつ、意外とどこでも逞しくやれるタイプだろうという謎の信頼感もあった。

 今日で三日目。
 帰ってくるのは土曜の夜、まだ先だ。

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