それらすべてが愛になる
 昨年でいえば、上総ホールディングスが開業した高級旅館の従業員の制服を維城商事へと発注した件。
 悟のこだわりでオリジナル要素をふんだんに盛り込んだそれは、旧知のよしみで通常金額の7掛けまで値切り倒したらしい。高級感と金額の折り合いをつけるのに苦労したことを、のちに洸から散々愚痴を聞かされた。

 「けど、何か折り入って話したいことがあるみたいでしたよ。まぁ、兄貴と会うのが面倒なのは俺も認めますけど」

 樹は時おりこうして二人の橋渡し役をやっている。
 合う合わないは誰にでもあるものだが、もう少し何とかならないのかと思わないでもない。樹がそう言うと、洸は少し目を見開いてこちらをまじまじと見た。

 「どうかしました?」

 「いや、つい最近も似たようなこと言われたなと思って。『人を好き嫌いだけで判断するな』ってさ」

 誰に?とは樹は聞かなかった。
 聞かなくても、その顔を見れば何となく察する。

 「分かった、今度こっちから連絡しておく」

 「お願いします」

 (…加賀城さんの方こそ、人のことを言えないほど入れ込んでいるように見えるけど)

 それも口には出さずに、グラスに挿さったストローをくるりと回す。

 「で、今日は何の用なんです?」

 到着してから雑談ばかりで、自分が何の用件でわざわざ休日に呼び出されたのか、樹にはまるで見当がついていなかった。

 洸は、やや人を食ったような笑みを浮かべながら肩を竦める。

 「あのさ、樹って料理できたよな」

 「?まぁ人並みには…」

 「カニクリームコロッケってどう作る?」

 「……はい?」

 いたく真面目な顔で尋ねてくる洸に、今度は樹が目を丸くする番だった。

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