それらすべてが愛になる

11. 暴かれた過去

 いつからか、毎朝目覚めるたびに願うようになっていた。

 どうか今日も一日を無事に過ごせますように、と。


 ◇◇◇◇

 「今日から部長って海外出張でしたっけ?」

 「そうよ、シンガポール二泊三日っていうか二泊四日?」

 「うわー相変わらず弾丸。お土産買ってきてくれますかね?」

 「どうかなぁ、期待しないほうがいいんじゃない?」

 週の始まりの月曜日。経営企画課にもたまに平和な日がある。
 ちょうど第二四半期の決算時期ではあるが、今期はあまりブレる要素もなく差し戻しも少ない。
 締め切りを迎える来週にかけて週の後半から否応なく忙しくなるので、つかの間の平穏といったところだ。

 「マーライオンクッキーとかあるみたいですよ」

 「でたー、マーライオン」

 未知夏がおかしそうに笑いながら、確かにシンガポールって何が有名なんだろ?とつられてネットで調べ始める。

 清流はそんな和やかな会話を、どこか上の空で聞いていた。

 「清流ちゃん、どうしたの?」

 「え?あ、いえ何でもないです。私もシンガポールの有名なものって何かなぁって考えていて」

 今日は正面の席に座る未知夏から視線を受ける。清流は自分の表情が固まっていたことに気づいて、慌てて話を合わせた。

 「案外パッと出てこないわよねぇ。私もあのプールで有名なホテルぐらいしか思いつかないわ」

 「マリーナベイ・サンズですね」

 「唯崎さん詳しいっすね、でもやっぱマーライオンですって」

 話題が逸れていったことに安堵しつつ、清流は憂鬱な気持ちを抱えていた。

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