それらすべてが愛になる
 少し前から、誰かにつけられているような気がする。

 ただそんな気がするだけで、振り返っても誰かがいるわけでもない。
 それは毎日ではなく間隔もまちまちで、だから自分の勘違いのような気もして確信が持てずにいる。

 ちょうど昨日の帰りに、またつけられている感じがした。
 誰かに相談しようにも勘違いかもしれないし、何となくといった自分の感覚だけでうまく説明できない。

 それとなく守衛やコンシェルジュの人に最近自分を訪ねてきた人はいないか確認してみたけれど、そういった来客はいないということだった。

 気のせいかもしれない。
 おそらく気のせいだろうと思う。

 けれど、清流は自分の中にある言いようのない不安感のようなものを拭えずにいた。


 それから何事もなく二日が過ぎた。

 経営企画課でも大きなトラブルはなく、今日は十八時には退社することができた。
 今日の夕飯は作り置きではなく何か作ろうと、会社帰りに最寄りのスーパーに寄ることにした。

 洸は、明日の早朝に日本に帰国する予定だ。明日の朝は久しぶりに朝ごはんを一緒に食べられるかもしれないと、朝ごはん用の材料になりそうな野菜やフルーツも買った。

 買い物袋を下げながら、マンションまでの道を歩く。


 「すみません」


 背後から声がしたのは、曲がり角の直前だった。

 振り返ると、黒のTシャツにダボッとしたダメージジーンズというラフな格好をした男性が立っていた。

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