それらすべてが愛になる
 渡されたのはテキスト形式で書かれた原稿。

 その一行目に書かれた、

 『維城商事の御曹司加賀城洸氏の花嫁候補、Kさんの素顔に迫る』

 の一文を読んで、背筋に冷たいものが走る。

 「あなたのこと、ちょっと調べさせてもらいました。
 十年前に立て続けにご両親と死別し、以後は母方の叔母夫婦に引き取られた。なかなか波乱万丈な経歴ですね。けれど私が一番興味を引かれたのはその後です」

 原稿を持つ手が次第に小刻みに震える。

 氏原は清流の表情の変化を注意深く観察さながら、原稿の一枚めくらせてから真ん中付近を指し示した。


 『弱冠十八歳で二十四歳年上の資産家の男性と結婚。
 その後わずか一年あまりで離婚、その後転籍』


 その文字を見た瞬間、一気に普段封じていた記憶が一気に蘇ってくる。


 『分かるでしょう?今、うちにはお金が必要なのよ』

 六年前のある日、叔母の佐和子から突然もたらされた結婚話。
 それは、大学進学を控えた清流には青天の霹靂だった。

 『何も難しく考えることはないの』

 そう微笑む佐和子の顔を、今でもはっきり覚えている。


 『お金は愛で買えるし、愛はお金で買えるのよ』


 そう言い切った佐和子の言葉は、得体の知れない恐ろしさがあった。


 (………どうして、)


 どうして、見ず知らずのこの男が知っているのだろう。

 氏原は清流の心の内を読んだように、少し得意げな顔をしていた。

< 160 / 259 >

この作品をシェア

pagetop