それらすべてが愛になる

幕間3. 唯崎奏馬の逡巡

 清流が出社をしなくなって二日経った金曜日。

 唯崎は定時後に洸の住むマンションを訪れていた。

 洸の部屋には清流がいるはずでしかも体調が悪いはずなのに、自分が訪ねていいのだろうか。
 そんな疑問と、洸に呼び出されるときは大抵仕事とは別件――つまり面倒事を押しつけられるときだと理解している。

 「わざわざ悪かったな」

 キッチンで淹れられたコーヒーを置かれて、唯崎は思わず二度見してしまった。
 以前来たときはそんな労いの言葉などなく席につくなり本題に入ったし、そもそも水一つ出なかった気がする。いつの間にこんなもてなしをするようになったのだろうかと内心驚いた。

 「僕は大丈夫ですが…いいんですか?工藤さんは寝込んでいらっしゃるのでは?」

 そう言うと、洸の動きが止まった。
 様子がおかしい、何かあったのだろうか。

 「清流はいない。二日前にここを出て行った」

 「…出て行った?」

 二日前といえば清流が会社を休み、洸が不自然に早退した日でもある。普段滅多なことでは動じない唯崎も、さすがに動揺を隠せない。
 ただ洸が『出て行った』と表現したということは清流の意思であり、誘拐などといった最悪の事態ではないのだろうと頭を働かせた。

 洸は小さく息を吐き出した後、唯崎の前にホッチキス留めの書類を投げてよこす。その書類にはクリップに挟まれた名刺もあった。

 「……これは、」

 そこには、清流のこれまでの経歴が詳細に記されていた。

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