それらすべてが愛になる
 「そもそもなんでこの氏原ってやつが清流に目をつけたのか。おそらくこいつの後ろには誰かいる。まずは見つけて、洗いざらい吐かせる」

 そう言った洸の端正な表情の下には、ともすれば溢れ出しそうな激情と、ある種の覚悟を秘めているのが見てとれた。

 けれど、怒りまかせでは解決しない。
 そのことをよく分かっている、冷静で冷徹な顔だった。

 誰かのためにこんな顔をするのだな、と唯崎は内心驚いた。
 損得だとかそういうところから離れて、それはもっと本能的なものだと感じる。

 「…副業もほどほどに、ではなかったんですか?」

 そう聞くと、そうだったか?と洸は嘯いた。
 加賀城洸という人間の底はまだまだ知れない。そんなことを思う。

 「引き受ける前に、一ついいですか」

 「なんだ?」

 「過去の貴方なら婚約者だろうが課の補充要員だろうが、すぐに新しい人を調達してきたはずです。実際にこれまではそうだった。今回はそうしないのはなぜですか?」

 唯崎は受け取った名刺をいったんテーブルに置く。

 洸がそこまでしてなぜ清流を追いかけるのか。
 理由は分かっているつもりだが、洸自身の口から聞く必要があった。

 「僕も昔のツテを使うとなればノーリスクとはいきません。ですから、貴方の覚悟が知りたいんです」

 (…さて、どう答えますか?)

 唯崎は、少し目を見開いた洸を真っ直ぐに見据えた。


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