それらすべてが愛になる
 そこから十五分ほど歩くと、泊まらせてもらった高級ホテルが見えてくる。

 (日本に戻ってから調べたら、とても歴史的価値のある建物のホテルだと知ってびっくりしたっけ)

 さすがに中には入れないので外観を眺めるだけにして、地図を見ながらスペイン坂へと向かう。スペイン坂を通って、トレビの泉へ。翌日の街歩きは本当に楽しかったことを思い出して、無意識のうちに笑みが浮かんだ。

 だんだんと人通りも増えてきて、それに合わせてジプシーらしき人に声をかけられる頻度も上がる。

 特に今は一人歩きだからか格好のターゲットになってしまったようで、一人の花カゴを持ったジプシー風の女性が強引に渡そうとしてきた。

 絶対に受け取るな、というあのとき教えられた通りに無視して進もうとすると、声を張り上げながら腕を掴まれて、その瞬間に手の甲に鋭い痛みが走る。

 「痛…っ、」

 それは赤い薔薇の花だった。
 棘が掠めたようで、手の甲のところが横に少し切れて血が滲む。

 それを見た女性はバツが悪くなったのか、それまでの勢いをなくしてお金も取らずに走り去っていった。

 一人のおばあさんが心配そうに声をかけてくれて、清流はGrazie(ありがとう)とだけ言ってハンカチで血を拭う。


 (……あのときは、加賀城さんに守られていたんだな)

 いつだってそうだった。

 ふと優しい記憶に引きずられ甘えてしまいそうになるのを、清流は振り払うように足を早めた。

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