それらすべてが愛になる

15. 対峙するとき

 清流が日本に向かう飛行機に乗っていたころ、洸もまたある場所を訪れていた。

 『早乙女』と書かれた表札の下にあるインターホンを押すと、程なくしてドアが開く。

 「…あらっ、加賀城さん?」

 「どうもお久しぶりです」

 ともすれば引きつりそうになる口角を無理やり上げて、洸は営業スマイルを浮かべて挨拶をする。
 訪れていたのは清流の実家、今は彼女の叔母夫婦が暮らしている家だった。

 「いいえこんなところまでわざわざ来てくださって。どうぞお入りください」


 玄関を開けて出迎えた佐和子は一瞬驚いたような顔をした後、にこやかに洸を迎え入れた。
 促されて玄関を上がると、廊下を進んで六畳ほどの和室の客間に通される。家の外観も中も綺麗で、まだ数年以内に建てられたように新しかった。

 佐和子はお茶を淹れてきますねといってキッチンへと向かい、入れ違いで一人の男性が入ってきた。

 「初めまして、清流の叔父の早乙女久志(さおとめひさし)です」

 「加賀城洸です。突然お伺いして申し訳ありません」

 洸は佐和子とは一度会ったことがあるが、叔父である久志とは初対面だ。

 洸に見せる笑顔は穏やかだがやや気の弱そうな面立ちで、その印象の通りお茶を淹れて戻ってきた佐和子には座る場所がそこじゃないとか、貴方は本当に気が利かないなど言われ、あっという間に黙り込み静かに緑茶を啜り始めている。

 「すみませんね、ろくにおもてなしもできなくて。それで、今日はどんなご用件でいらしていただいたんです?」

 「実は、清流さんと正式に婚約することになりましたので、そのご報告をさせていただこうと思って」

 佐和子に勧められて口を付けた湯飲みを置いて、洸はそう告げた。

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