それらすべてが愛になる
 (誰かお参りに来てくれたの?)

 父方にはもう親戚はいない。父か母の友人などだろうか。

 でもお供え物を置いたままにしてしまうなんて変わっているな、と不思議に思いながら、墓石を洗うために濡れてしまわないように動かそうとしたときだった。

 お供え物のぶどうと敷き紙の間に、小さなメモが挟まっているのが見える。

 (……何だろう?)


 その文字が見えた瞬間、息が止まった。


 『会いたい 洸』


 小さなメモには、その一言だけ。


 「……どうして?」


 間違いなく、洸の筆跡だ。
 無意識にその文字をなぞると、あっという間に視界が滲んでぼやけていく。

 残してきた手紙を、洸は読んでいないのだろうか?
 それとも、読んでもなお探してきたくれたのだろうか。

 でも、どうして。

 どうしてここが分かったのだろう。


 いくつもの『どうして?』が頭の中を駆けめぐる。

 綺麗な花にお供え物。
 とても新しく綺麗なそれらは、どう見ても洸がごく最近ここに来たことを裏づけていた。

 コートのポケットの中のスマートフォンを取り出す。

 マンションを出てから何度も消そうとして消せないままの連絡先を開く手が震える。


 「………私も、会いたいです」


 こぼれ落ちた本音に、誰に聞かれているわけでもないのに思わず口を抑える。

 許されるなら。

 もう一度会って、好きだと伝えたい。

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