それらすべてが愛になる
 「いいかげんにしないか……!」

 それまで物静かだった久志が初めて声を荒げて、佐和子の頬を叩く音が響いた。

 佐和子も驚愕しているが、洸も一時呆気に取られる。けれど、彼がそうしていなければ自分がそうしていたかもしれなかった。

 「お前は自分が何をしたのか分かっているのか?
 一度目の結婚のときは清流が幸せになれるからと…それが自分の借金を返すため?それをまた同じことを繰り返して、今度は人様まで巻き込んで何てことをっ」

 「あなたに何が分かるのよ、何もしてこなかったくせに!会社のことも清流のことも、いつだって最後は『君に任せるよ』ばかり。あなたがいったい私に何をしてくれたの?私を責める資格があなたにあるっ!?」

 (清流がこの場に居なくてよかった)

 繰り広げられる醜い諍いに、こんな聞くに堪えない話を直接聞かせずに済んでよかった、と洸は思う。

 しばらくして幾分か冷静さを取り戻した久志が、居住まいを正して洸に向き直った。

 「……佐和子と私も親同士が決めた政略結婚のようなもので、彼女が望まない結婚をしたことを理解していました。その負い目もあって、家でのことや家計の管理も佐和子のしたいようにやらせていました。

 清流を引き取ることになったときもそうです。私たちには子どもがいなかったから…それまで親戚として会うことはあっても、いざ暮らすとなったらどう接したらいいか分からず…佐和子の方が女同士だし通じる部分があるだろうと、確かに任せきりにしていました。

 でも、もう終わりにしなくちゃいけない。
 恨むのは清流でも早希子さんでもなく、私じゃなければいけなかったんだ佐和子。
 加賀城さんにも…多大なご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」


 久志は畳に手と頭をついて、深く深く頭を下げた。

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