それらすべてが愛になる
◇◇◇◇

洸は墓地近くの駐車場に停めた車の中で一人、昨日のことを思い出していた。

腕時計で時間を確認し、それからスマートフォンを開く。
今日何度目か分からない動作だが、連絡が来るのは今の洸にはどうでもいいものばかりで、画面を閉じると助手席に放り投げた。

『最後に一つだけ。清流のご両親のお墓はどこにありますか?』

昨日の話し合いの後、車を飛ばしてここまで来た。

『工藤家』と記された墓の前はお世辞にも手入れがされているとは言いがたく、花立の花もすっかり枯れていた。

―――清流はまだ訪れていない。

そう思ってメモ書きを残して近くの駐車場で待ち、一晩ホテルに泊まってまた朝からここにいる。

昨日のメモ書きはそのまま残されていたのですれ違ってはいなさそうだと思いたいが、もしかしたら空振りなのかもしれない。

(いや、そんなことはないはず、そうでないと…)

ぶどうと交換して引き上げてきた昨日のお供えの饅頭を食べながら、洸の脳裏にさまざまな考えがよぎる。

一度着信音が鳴って慌てて取ったが相手は舞原からだった。
ときどきパソコンを開き仕事の進捗は確認しているが、やはりそれでも回らなくなりつつあるらしい。

指示を出してから通話を切ると、再び助手席へと放り投げる。
洸はハンドルに突っ伏して、重い息を吐いた。

清流がいなくなってもうすぐ一週間。
洸自身も何かと理由をつけて休んで三日目になる。

スケジュールを調整したり榊木や唯崎に任せたりして凌いできたが、そろそろ限界かもしれない。

「……さすがに、今日には帰らないとまずいか」


そのとき、助手席に放り投げたスマートフォンが震えた。

また舞原の泣き言だろうか。
食べかけの饅頭を口に放り込んでからろくに画面も確かめずはい、と出る。


一呼吸置いて、電話の向こうから聞こえてきたのは待ち望んでいた声だった。



「………か、かがしろさ、」


電話の向こうの声は消え入りそうで、合間に鼻を啜るような音ばかりがはっきり聞こえた。

けれど、そこにいると分かっただけで安堵で力が抜けて、車のシートにどさりと体をもたれさせた。



「……遅い、待ちくたびれた」


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