それらすべてが愛になる

16. 迷いから醒める

 分かっていた。

 一度声を聞いてしまったら、きっと気持ちが溢れて止まらなくなることを。

 耳に届いた声は懐かしくて、自然と目に涙が浮かぶ。
 そっちに行くまで絶対に切るなと言われて、洸がまだこの近くにいるのだと知って清流はますます頭が真っ白になった。

 どうしてここに来ることが分かったのかとか、なぜこんなところにいるのかとか疑問はいくらでも出てくるのに、電話越しに話す声を聞いているとそれは彼方へと溶けていく。

 会ってしまったら本当に戻れなくなるという気持ちと、会いたくて仕方ない気持ちがせめぎ合って整理がつかない間に、もう洸はすぐそこまで来ていた。


 「見つけた」


 その一言とともに電話が切れて、清流はゆっくりと振り向いた。


 「………加賀城さん…」

 そうして振り向いた清流が、まるで幽霊にでも会ったかのような顔をするものだから、洸はなぜか笑いが込み上げてきてしまった。

 「…どうして、」

 少しずつ縮まっていく距離に気づいた清流は、途端に我に返って手を前に出し下を向いた。

 「これ以上は、だめです……来ないでください」

 「…なんで?」

 「だ、だって、手紙読みましたよね?だめなんですっ、私、」

 ずっと言えない秘密を抱えていたこと。
 騙してそばにいたこと。
 自分がいたら洸に迷惑がかかること。

 胸がちぎれるような思いで起こしたこの行動が、すべて台無しになってしまいそうで怖かった。

 またもう一度あの思いをして離れる気力など、きっともう自分には残されていない。

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