それらすべてが愛になる
 『清流の部屋、まだ荷物が全部そのままだし今日は俺の部屋で寝たら?』

 お風呂に入る直前、部屋でスーツケースの荷解きをしているときに、洸にそう声をかけられていた。

 『え、でもさすがに申し訳ないですしっ』

 『段ボールだらけで落ち着かないだろ、それに危ないし。部屋の鍵は開いてるから』

 そう言い残してドアが閉まり、それから清流の中ではこの「今日は俺の部屋で寝たら?」に込められた意味を探ろうと、ずっとぐるぐると頭の中を巡っている。

 そっと自分の唇に触れると、まだそこには洸の唇の感触がありありと残っていた。

 「……どういう意味なんだろう…」

 経験はないが清流もそれなりの年齢で、まったく何も知らない、分からないというほど子どもではない。

 今、部屋の床は1週間前に荷造りした段ボールが積み上がっている。
 清流は実家に送るよう頼んでいたけれど、洸はそうしなかったのでそのまま残されているためだ。
 落ち着かないと言われれば、確かにそうかもしれない。

 初めて会った日の夜にホテルの同じ部屋で寝ても、徹夜明けの洸に抱き枕代わりにされたときも何も起こらなかった。つまり今回も純粋に100%善意の可能性もある。

 それか、部屋を清流に貸す代わりに自分はリビングで寝るということかもしれない。

 もしそうだったとしたら、こんな邪な想像をしている自分がひどく滑稽なことのように思えてきた。

 「なんか、のぼせそう……」


 バスルームを出て洗面所で着替えなどを済ませてからリビングを覗くと、もう明かりは消えていた。

 ということは、もう洸は自室にいるということだ。


 なるべく音を立てないように廊下を歩く。
 いくら広いマンションとはいえ、十歩も歩けば洸の部屋の前に着いてしまった。

 ドアの下から漏れる明かりを見て、清流の心臓の鼓動はどうしようもないほど速くなった。

 一度ノックをしようとして深呼吸をする。


 このドアを開けたあとは―――明日の朝になったときには、どうなっているのだろう。

 どれだけ考えても清流には分からなかった。

 そのすべてはきっと、このドアの向こうにある愛する人の手に握られているのだから。


< 235 / 259 >

この作品をシェア

pagetop