それらすべてが愛になる

幕間4. 金井奈々代の顛末書

 朝の七時、金井奈々代(かないななよ)はスタッフの控室で引継ぎ事項を受けていた。

 トラブル等がなかった報告を受けて今日の予定を確認する。今日は十時から植栽の剪定管理の業者が来訪する予定だ。

 身だしなみを整えてカウンターに立つと、エレベーターから住人が降りてきた。金井は少し背筋を伸ばして笑顔で挨拶をする。

 「いってらっしゃいませ」

 今日もこのマンションは、平和だ。



 金井はコンシェルジュの仕事に誇りを持っている。
 専門学校を出て都内のホテルに就職して数年勤めた後、この仕事に転職をしてもうすぐ十二年。

 この世界に足を踏み入れたきっかけこそ、セレブでハイソサエティな人々の暮らしを垣間見れるかもしれないという、邪な気持ちがまったくなかったかといえば否定はできない。
 けれど今は住民から信頼を得るのは喜びだし、その信頼に報いたいという気持ちが強くなった。

 中にはコンシェルジュなど使用人かそれ以下とばかりに傲岸不遜な態度を取る住人も一定数いるが、仕事をこなすうちにそういう人たちへの対応も慣れるものだ。

 そして不思議なことに、そういった類いの住人は大抵自らマンションから去っていく。のちに事業や投資の失敗などを風の噂で知ることも多い。


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