それらすべてが愛になる
 これまで数棟のマンションで勤め、今のマンションを担当するようになってもうすぐ二年になる。

 超高層マンションではないが、広大な敷地と建物の周囲を植栽が四季折々の景色を彩るこのマンションはこれまで担当してきたどことも雰囲気が異なっていて、個人的にも気に入っている職場でもあった。

 金井は手元にある台帳をぱらりとめくる。

 ここの最上階の住人である加賀城洸――国内最大手のアパレル企業の御曹司。長身でブランドスーツに身を包み、初めて見たときはまるでファッション雑誌からそのまま抜け出してきたモデルのようだったと思った。

 初めは、どちらかといえば無愛想という印象だった。

 一度部屋の火災報知器が鳴ってボヤ騒ぎを起こし、後日高級な菓子折りを持って謝罪にきて以降、軽く会釈するようになったくらいだ。


 それがあからさまに変化したのは、同居人という工藤清流という女性がやってきてからのこと。

 手続き上は『婚約者』となっていたが、二人の距離感からそういった甘い関係性ではなくどうも訳ありのように見えたが、提出書類に不審な点がなければこちらがとやかく異論を挟むことはない。

 彼女はこういったマンションで暮らすのも初めてらしく、説明する一つ一つに目を丸くして驚いていたのが、失礼ながらちょっとかわいく思ったくらいだ。


 ただ清流は、朝も帰ってきたときもいつも明るく挨拶をしてくれて、金井の中で清流の印象はとても良かった。

 そしてここでの暮らしも一ヶ月ほど経つ頃には、休日などに洸とともにエントランスを通るときに「加賀城さんも挨拶しないんですか?そういうの大事ですよ」なんて話しかけたりしていて、仲睦まじい姿を目にすることも多くなった。


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