それらすべてが愛になる

19. アイネクライネ

 一週間ぶりの出社は、何だか初出社の日よりも緊張する。

 エレベーターが来るのを待っている間も廊下を歩いているときも、隣りを歩く洸に顔強張ってるぞ、と笑って指摘されたくらいだ。

 経営企画課のドアの前まで来て、清流は一度大きく深呼吸をする。

 カチャ、とドアを開けて入ってきた清流の姿を見つけると、すでに出社していた未知夏と舞原がそろって目を丸くした。

 「えぇ、ちょっともう大丈夫なのっ!?」

 「体調は?入院するかもって聞いてたんですけど」

 歩み寄って矢継ぎ早に声をかけてくれる二人に、こんなに心配をかけてしまったんだと申し訳なくなる。

 「本当にご心配をおかけしてすみません」

 清流は一週間も休んでしまったことを謝って、叔母のことなどの詳細はぼかしつつおおまかな事情を話した。

 清流自身の過去のこと、この一週間で起きたこと。
 それを話すには洸と清流の関係も説明する必要があり、あまり長くならない程度に打ち明けると、唯崎を除き、初めて事情を聞かされた二人は驚きで絶句していた。

 「……えっと、いったん整理させて?まずは、清流ちゃんが過去のことで脅されてた件というのは、本当に解決したって認識でいいのね?大丈夫なのよね?」

 「そこは心配しなくていい」

 「分かったわ。で、唯崎くんは全部知ってて私たちには黙ってたってことね?」

 「すみません」

 唯崎は未知夏からの視線に、少しだけバツが悪そうに眼鏡のフレームを触る。

 「もう、何なのよ水くさいじゃない!言ってくれればそんなヤツ私がとっ捕まえて警察に突き出してやったのに!」

 未知夏はものすごい剣幕で一気に言うと、清流をがしっと抱きしめる。

 「っていっても事情が事情だもん…難しいわよね。
 少し前から様子が変だったのもそのせいだったんでしょ?でもね、これからは困ったことがあったら何でも言って?近くにいて何の力にもなれないっていうのはもどかしいんだから」

 未知夏の言い聞かすような言葉と優しく見つめる瞳に、清流は我慢していた涙がじわりと溢れてこぼれそうになるのを必死にこらえる。

 「うー…未知夏さん…!」

 「ほらほら泣かないの、かわいい顔が台無しよ!」

 よしよしと頭を撫でられて、清流は今度は自分から未知夏に抱きついた。


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