それらすべてが愛になる
 「…それで?加賀城くんはそんないたいけな清流ちゃんを口八丁で婚約者役に仕立てたあげく、ちゃっかり同居に持ち込んで一緒に暮らしてたってわけ?」

 「言い方に棘がありすぎるだろそれ……」

 「でもまぁ、さっきの話だとほぼ事実っすよねぇ」

 「秘書課で噂になってた婚約者っていうのも清流ちゃんだったってことなんでしょ?」

 「あ、あのっ、加賀城さんから話を持ちかけられたのは本当ですけど、それを引き受けたのは自分なので…」

 矛先が洸に向いたことでおろおろし始める清流の両肩を、未知夏はぐっと掴む。

 「いろいろ助けてもらったからって、それを理由に迫られてるとかじゃないわよね?」

 「あのな榊木、人を何だと」

 「加賀城くんは黙ってて」

 未知夏は洸の反論をスッパリと切り捨てる。
 真剣な目で尋ねる未知夏に、清流も姿勢を正して向き直った。

 「は、はい、そういうわけじゃないです」

 「本当ね?加賀城くんの気持ちなんてだだ漏れだったから今さら疑いようがないけど、清流ちゃんも今はちゃんと納得した上ってことでいいのよね?」

 「はい」

 清流が頷くと、未知夏はふぅっと肩の力を抜いてにっこり笑った。

 「それならもう言うことはないわ。さてと、今日からまたいっぱい働いてもらうからね~、仕事なら山ほどあるから!」

 「はい、頑張ります!」

 清流もつられて笑うと、部屋の空気が少し緩む。

 「無罪放免になったみたいでよかったっすね、部長?」

 「舞原、お前にも頼む仕事が山ほどあるからな」

 「げえ、俺これでも部長がいない間けっこう頑張ってたんですけど!?」


 経営企画課に賑やかな日常が戻ってきた。
 唯崎は少し離れたところから眺めながら自席について仕事を始めようとしたとき、清流が隣りに近づいてくる。

 「あの、唯崎さんにもいろいろしていただいてすみません、ありがとうございました」

 「いいえ。僕は頼まれたことをしただけなので」

 自分がしたことはそれほど大したことではない。
 実際に清流の居場所を見つけたのは洸の力だ。

 ぺこりと頭を下げて席へ戻っていく清流に唯崎は、あ、と声をかけた。

 「そういえば、言っていませんでしたね」

 「え?」

 「おかえりなさい、工藤さん」


 そう言った唯崎は、柔和な笑みを湛えていた。


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