それらすべてが愛になる
 二時間ほどいろいろな話をして、今度はランチを一緒に食べようと約束をしてからラウンジを出た。

 そのとき清流は肝心なことを思い出して、駿を呼び止める。

 「もしかして、あのときの食事代のことかな?」

 「え?あ、はい……」

 駿はそうだなぁと少し考えてから、何か閃いたように手をぽんと叩いた。

 「じゃあ、息子と結婚するまで貸しにしておくのはどうかな?いつか家に来てくれたときに返してくれたらいい」

 思いがけない提案に目を丸くしている清流を見て悪戯っぽく笑う顔は、やはり洸に少し似ていると思った。

 「ところで、本当にうちの息子でいいのかい?なかなか頑固で子どもっぽいところもあるけれど」

 少し肩を竦めて苦笑する駿に、清流はちらりと洸を振り返る。


 これまで過ごした半年間の中で洸が見せてくれた、いろんな顔の一つ一つを思い返す。

 優しいところも、厳しいところも、実は嫉妬深いところも。

 何気ない日常が愛おしく思えるものをたくさんもらった。
 そしてそれらが、これからの日々を彩ってくれて、幸せにしてくれるものだと知っている。

 「はい、もちろんです」


 「うちの息子は幸せ者だね」


 過去を嘆くことはもうしない。

 ありのままを認めて受け入れてくれる人が、
 こんなにも自分の周りにいてくれるから。


 「…またなんか余計なこと言ってるだろ」

 「それは清流さんと私との秘密だ」

 「だから気安く呼ぶなって。もう行くぞ清流」

 不意に洸が清流の手を取って強く握るので、清流は驚いて洸の顔を見上げる。

 「!?ちょっ、ご、ご両親の前ですよ…!?」

 「いいだろ、もう恋人同士なんだから」


 後ろからおやおや、とか、あらあらなんて声が聞こえて真っ赤になる清流の顔を見て――洸はりんごみたいだな、と笑った。


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