それらすべてが愛になる
 清流は冷たいお茶で喉を潤しながら、洸の様子を眺める。

 洸はページをめくったかと思うと、また少しすると前のページに戻ってと行ったり来たりしている。

 清流には、こういう読み方をするときの心当たりがあった。
 ミステリーの謎解きのシーンだ。どのページに伏線があったか戻って読みたくなるとき。つまり、今洸が読んでいるのはストーリーの一番盛り上がるところ、ハイライトといっていい。

 洸が清流の声がけに反応しなかったのも、さっき驚いたような反応をしていたのも、それだけ集中していたからだ。

 ここまでの洸の態度を総合してそう結論づけると、これ以上ここにいてせっかくの読書の邪魔をするのは気が引ける。

 清流はグラスのお茶を一気に飲み干すと、早めに退散することにした。

 「明日は日曜日ですけど、今日みたいにお仕事だったりしますか?」

 「いや、明日は一日休み」

 「分かりました。それではお先に失礼します」

 「あぁ、グラスは一緒に洗うからシンクに置いとけ。ゆっくり休めよ」

 「ありがとうございます、じゃあおやすみなさい」


 こうして清流の引っ越し初日、試用期間の一日目が静かに終了した。


 知らないところで、思わぬ波紋を残して。


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