それらすべてが愛になる
 キッチンへと移動した清流は冷蔵庫を開けようとして、さっきソファーテーブルの上には何も飲み物がなかったことを思い出す。

 自分の分だけ用意するのも違う気がして、カウンター越しに声をかけてみる。

 「あの、加賀城さんも飲まれますか?」

 洸は振り向かない。もう一度少し声を大きくしてみても結果は同じだった。
 ここのLDKが広すぎるせいか、よっぽど読書に集中しているのだろうか。

 夕食後に洗って乾かしてあったグラスを二つ取ってそれぞれにお茶を注ぐと、またリビングへと戻る。


 清流が加賀城さん、と声をかけようとしたのと、洸が勢いよく振り向いたのはほぼ同時だった。

 まさかタイミングが被るとは思わず、清流も驚いてグラスを取り落としそうになる。


 清流の姿を目にとめた洸の顔つきは、何とも形容しがたいもので。

 まるで、砂糖と塩を間違えたケーキを食べたときのような、予想外のことが起きたバツの悪さと気恥ずかしさが綯い交ぜになったような、そんな表情だった。

 「ごめんなさい、お茶飲むかなと思いまして。脅かすつもりじゃなかったんですけど」

 「あぁ、悪い…ありがとう」

 でもそれはほんの一瞬のことで、洸が差し出したグラスを手にしたときは、何事もなかったように元に戻っていた。

 だから、もしかしたら清流の気のせいなのかもしれない。

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