それらすべてが愛になる
幕間1. 加賀城洸の誤算
ドアが閉まり清流の気配がなくなったリビングで、洸はようやくここまで漕ぎつけた、と安堵の息を吐いた。
清流も引っ越しや入社に向けた準備で大変だっただろうが、洸もまた同じように、それらが滞りなく進むよう仕事の傍らで奔走していたのだ。
清流の入社に関しては、さほど大きな問題はなかった。
清流が配属予定の経営企画課は人の入れ替わりが激しく、人員補充の話は頻繁なので人事が慣れていたことが一つ。
そして、思いのほか清流自身の能力が高く、試験や人事面接を難なくパスしたことで裏から手を回す必要がなくなり、手続きが手こずらずに済んだこと。
むしろ問題は、同居に関することの方だった。
今、洸の元に寄せられる縁談のほとんどは、父親である駿からもたらされている。
洸があれこれと理由をつけて断ろうとしていることは駿にはバレているので、洸自身がそれらしいことを言ったところで、聞く耳を持たないことは想像に難くない。
なので、清流の希望で当面職場では関係を秘密にするとなった以上、父親に対して『婚約者』という存在の信憑性を持たせるために、洸は自分の秘書兼運転手である槙野の存在を利用することを考えていた。
槙野の父は駿の運転手をしているため、槙野を経由すれば駿の耳に婚約者の存在を知らせることができる。
槙野は真面目で仕事ができるが、嘘がつけない。
古くから知る人間なら周知のことで、槙野が婚約者としてマンションに出入りする清流の存在を認めれば、信憑性が増す。だからどうしても、同居が必要条件だった。
『一緒に暮らすなんて無理です、というか絶対嫌ですっ!』
あそこまで拒否されるとはな、と洸は清流の剣幕を思い出す。
断固拒否する清流を説得するのが、何より大変だった。
同居は無理、家を出てどこかアパートを借りて暮らすの一点張り。
最終的には『学生でもなく就職先も決定していない状態で部屋を借りられるのか?』という、できれば口にしたくなかった清流のウィークポイントを指摘して無理やり納得させるしかなかった。
だから今日は怒っているか素っ気ない態度か。
とにかく、もっと距離をとられるだろうと洸は覚悟していたのだが。
(本当に、危なっかしいっつうか、無防備っつうか…)
洸は先ほどからまったく頭に入ってこない本を閉じて、ふっと小さく笑った。
清流も引っ越しや入社に向けた準備で大変だっただろうが、洸もまた同じように、それらが滞りなく進むよう仕事の傍らで奔走していたのだ。
清流の入社に関しては、さほど大きな問題はなかった。
清流が配属予定の経営企画課は人の入れ替わりが激しく、人員補充の話は頻繁なので人事が慣れていたことが一つ。
そして、思いのほか清流自身の能力が高く、試験や人事面接を難なくパスしたことで裏から手を回す必要がなくなり、手続きが手こずらずに済んだこと。
むしろ問題は、同居に関することの方だった。
今、洸の元に寄せられる縁談のほとんどは、父親である駿からもたらされている。
洸があれこれと理由をつけて断ろうとしていることは駿にはバレているので、洸自身がそれらしいことを言ったところで、聞く耳を持たないことは想像に難くない。
なので、清流の希望で当面職場では関係を秘密にするとなった以上、父親に対して『婚約者』という存在の信憑性を持たせるために、洸は自分の秘書兼運転手である槙野の存在を利用することを考えていた。
槙野の父は駿の運転手をしているため、槙野を経由すれば駿の耳に婚約者の存在を知らせることができる。
槙野は真面目で仕事ができるが、嘘がつけない。
古くから知る人間なら周知のことで、槙野が婚約者としてマンションに出入りする清流の存在を認めれば、信憑性が増す。だからどうしても、同居が必要条件だった。
『一緒に暮らすなんて無理です、というか絶対嫌ですっ!』
あそこまで拒否されるとはな、と洸は清流の剣幕を思い出す。
断固拒否する清流を説得するのが、何より大変だった。
同居は無理、家を出てどこかアパートを借りて暮らすの一点張り。
最終的には『学生でもなく就職先も決定していない状態で部屋を借りられるのか?』という、できれば口にしたくなかった清流のウィークポイントを指摘して無理やり納得させるしかなかった。
だから今日は怒っているか素っ気ない態度か。
とにかく、もっと距離をとられるだろうと洸は覚悟していたのだが。
(本当に、危なっかしいっつうか、無防備っつうか…)
洸は先ほどからまったく頭に入ってこない本を閉じて、ふっと小さく笑った。