それらすべてが愛になる
 洸の清流についての第一印象は『危なっかしい』だった。

 イタリアで車中からその姿を見たときから、その印象は変わっていない。

 雨の降る中ずぶ濡れになっても傘もささず、走って雨宿りできる場所を探すでもなく。ただ淡々と、空を見上げて降る雨に打たれ続ける。

 槙野に車を止めるように言ったのは、そこだけ切り抜かれたような光景が妙に目を引かれたのがきっかけだった。


 突然走り出したかと思えば、見るからに危なそうな路地へ行こうとする。
 ついさっき強盗に遭う寸前だったと聞かされたにも関わらず、日が暮れてから一人で宿探しをすると言い出す。

 清流の危なっかしさは洸の想像を超えていて、どれだけ無鉄砲なことか分からせようと押し倒せば、今度は抵抗も動揺もほとんど見せない。

 初めは箱入りの世間知らずなのかと思っていたが、その諦めたような表情を見て、洸は自分の見当が外れていることを悟った。


 けれど清流の持つ雰囲気は擦れた性格とは真逆で、同じベッドにいるだけでワーキャー騒いだり、噴水にコインを投げる投げないではしゃいだり。

 その掴みどころがなさに、洸は内心振り回され続けていた。

 壊滅的な運の悪さと、
 地に足がついていないような無謀さ。

 図らずも一日過ごすうちに「こいつに何かあったら寝覚めが悪いだろうな」と思うくらいには、洸は清流に同情を寄せていた。


 それが、清流に手を差し伸べてあれこれ世話を焼いた理由。
 言い換えれば、ただそれだけだった。

 だから連絡先を聞かず、洸自身は名前以外一切明かさなかったのだ。

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