それらすべてが愛になる
 あの日料亭で再会したのは、本当に偶然だった。

 父親が取引先から断り切れずに引き受けた縁談で、洸の中では断ることが会う前から決まっている、とにかく「縁談をした」という事実のためだけに設けられた不毛ともいえる空間。

 とにかく相手の機嫌を損ねず、無難に時が過ぎるのを待っていたとき、どこからともなく感じた視線に顔を上げたとき、視界に入った桜色の着物。


 視線は合わなかったし、服装や髪型などはまったく違っていたものの、洸はすぐに清流だと分かった。


 後からやってきた母親らしき女性に引っ張られていく横顔。

 それがあのときの、洸の下で何もかも諦めたように見上げていた表情と同じだったから。


 その横顔を見たとき、なぜか分からないが無性に苛立った。


 ―――まだ、そんな顔をしているのか。



 気づいたときには、洸は行動に移していた。

 急遽仕事が入った、と予定時刻より早めに形だけの縁談を終わらせると、顔見知りの女将を言い含めて清流本人がいることを確認し、ついでに部屋の場所を聞き出すことに成功した。

 洸にとって運が良かったのは、女将と話している途中で、一瞬見かけた清流の母親と思しき女性――実際には叔母である佐和子と、思いがけず遭遇したことだった。

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