それらすべてが愛になる
 洸は佐和子を呼び止め、声をかけた。

 突然話しかけられた佐和子は驚いて、清流と知り合いだと言うとますます警戒感をあらわにした。当然かと思いつつ、洸はなるべく人当たりのいい笑顔を浮かべる。

 「あの子とお知り合い?何のご用なんです?」

 清流が旅行先でのことをどう話しているか分からなかったため、ここは変に嘘をつかない方がいいと判断した。
 まずは非礼を詫びた後、先月イタリアでちょっとしたトラブルがあり、それがきっかけで知り合ったことを営業スマイルで説明する。

 「イタリアでは連絡先を聞きそびれてしまって。先ほど偶然お見かけして、もしかしたらと思ったものですから」

 予想通り、洸の話を聞いても佐和子は不快そうに眉を顰めたままだ。

 「……残念ですけれど、今日はちょっと。
 あの子をご覧になったのならお分かりかと思いますけど、今日は良いご縁があって今歓談の最中なんです。お相手も地元で代々続く地主の息子さんで、それはとっても素晴らしい家柄の方で。あ、もちろん人柄も非の打ち所がない良い方なんですけれど」

 やや後ろでこちらの様子を見ている、おそらく一緒に中座してきた相手側の付添人であろう年配の女性の方を見やって、佐和子は微笑む。

 「ですからもし何かお話があるというのなら、日を改めていただけません?」

 その口ぶりから、佐和子が何を重視するタイプなのか何となく見えた。
 いつもの癖で入れてきてしまったが役に立つかもな、と思いながら、洸はスーツの内ポケットに手を入れて名刺を一枚抜き取った。

 「そうですか…自己紹介が遅れて申し訳ございません、私はこういう者です」


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