それらすべてが愛になる
 差し出された名刺の名前を見た佐和子の態度は、洸が思った通りの変わりぶりだった。

 相手の付添人に断りを入れてから洸の元へと戻ってくると、打って変わって穏やかな表情になる。

 「維城商事の方でしたのね、そんな方とお知り合いだったなんて。あの子っていつもそうなんですよ、肝心なことは何にも言わないから困ってしまって」

 洸たちは少し場所を移動して話すことになった。

 「今日の縁談は、彼女の希望なんですか?」

 「まさか、ずっと渋ってましたよ。あの子、今年の春に大学を卒業したんですけど、いまだに将来が決まってなくて、それであの子のために私がこの話をまとめてあげたんです。
 それなのにあんまり渋るものだから、私たち亡くなった義兄の会社を継いだんですけど、その会社を継がせてあげてもいいって条件でどうにか承諾させましたの。早く結婚して、少しは孝行してもらわないと」

 『就活もギリギリまでしてたんですけど結局上手くいかなくて…。
 いろいろ疲れちゃって、それで一度行ってみたかったローマに旅行しようと思って来たんです。それに、』

 『それに?』

 『いえ、何でもないです』

 旅行に来る前から、望まない縁談が待っていることを知っていたのだろう。そしてそれが断れるものではないことも。結婚すれば自由に旅行もできなくなる。それが分かっていたから、一人で飛び立ったのだ。

 (したくもない結婚を望まれてるのは、お互い同じってことか)

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