それらすべてが愛になる
 「ええ、本当です。
 実は今日は私も同じ理由でここにきたんですが、あいにくうまく行きそうになくて。そろそろ結婚するように親にせっつかれていて困っているんですけどね。それで、先ほど偶然お見かけした清流さんと、お話ができればなと思ったんです。
 けれど、少し遅かったようですね、そんな素敵な男性がお相手なら私が入り込む余地はなさそうですし」

 真実と嘘の中に、佐和子の気を引くような言葉も織り交ぜる。

 「それでしたら、この後あの子と話だけでもしていっていただけません?」

 「そうしたいのは山々ですが、私も忙しい身でして会社に戻らないといけないんです」

 「それなら今から参りましょう?もう歓談の時間なら十分取りましたし、きっといい頃合いですわ」

 さっきと言っていることが百八十度違う。
 変わり身の早さに内心嗤いながらも、それはおくびにも出さずに「それではよろしくお願いします」と完璧な笑顔を向けた。


 清流たちのいる座敷に向かう途中も、佐和子がいろいろと話しかけていた。
 まだ清流に会う前だというのに今後の段取りだとか結納金がどうとか辟易するものばかりで少々うんざりする。適当にあしらいながら、洸の頭の中は清流をどう説得しようかということでいっぱいだった。

 そうしているうちに、座敷の前に到着した。
 中の会話が漏れ聞こえてくる会話はなかなかの下衆さで、これで非の打ちどころがないなら世の中の大半が聖人君子だと洸は呆れた。

 (きっとまた、あの顔をしているんだろうな)


 自分の顔を見たら、どんな顔をするだろう。


 そんなことを思いながら、洸は勢いよく襖を開けたのだった。


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