それらすべてが愛になる
 「タンクに水を入れてないからそのアラート音。こういうの使うのが初めてなら聞けばいいのに」

 コーヒーを作るのだから水が必要なのは当たり前だ。
 そんな初歩的なことにも気づかない自分に呆れる。

 「そうですよね、すみません…」

 洸が手前のタンクを外して水を入れる。
 そこが外れるのか、と驚きながら使い方を覚えようと洸の手元を見る。

 「すごく本格的ですね」

 「あぁこれ?出張でミラノに行ったときに薦められて買わされた。物は悪くはないし使いやすいけど」

 清流も飲むかと聞かれて首を振る。

 「ごめんなさい、せっかくなんですけどコーヒー飲めなくて」

 コーヒーの香りは大好きなのだけれど、苦味や酸味が苦手で飲めないのだ。

 「そうか、ラテとかも無理?」

 「カフェラテは好きですけど、そういうのも作れるんですか?」

 洸はもう一つカップを取ると牛乳を注いだ。
 そのカップを左側のノズルの下に置きダイヤルを回すと、スチーム音とともに牛乳がみるみる泡立っていって、思わずわぁっと声が出る。

 「もうコーヒー豆は入ってるからやることは水をタンクに入れるだけ。後はコーヒーならこれ、エスプレッソならこのボタンを押せばいい」

 マシンが動き出しコーヒー豆がミルで挽かれる音と、コーヒーのいい香りがキッチンに広がってきた。

 その一つ一つの動作を食い入るように見ていると、そんなに珍しい?と聞かれる。

 「はい、バイト先に似たようなのがあったんですけど使ったことなかったので…当たり前ですけど使い慣れてますね」

 「手順を覚えれば簡単だ、セッティングすればボタン一つだし…何か昨日と立場が逆だな?」

 少し得意げに笑う洸を見て、昨日のオムライスのことを言っているのだと清流も全く同じことを思う。

 「あとは俺がやっておくから、向こうで座ってれば?」

 「いえ、やり方を覚えて次から自分でできるようにしたいので」

 二つ目のカップにコーヒーが注がれていくのを見つめたまま答えると、隣りから見られている視線を感じる。


 「なぁ、俺は清流のことを、家政婦とかお手伝いとして住まわしてるわけじゃないんだけど」


 「…え、?」


 思いがけない言葉に洸を仰ぎ見ると、さっき朝食を前にしたときのような難しい顔をしていた。


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