それらすべてが愛になる
 「えっと、これから一緒に仕事するなら加賀城さんのままの方がいいと思うんですけど…私もずっと気になってたんですけど、会社ではちゃんと『工藤』って呼んでくださいね?」

 「それくらいちゃんと使い分ける。だから家では名前で呼べよ、一緒に暮らすんだし」

 (それはつまり、家では(たける)さんと呼ぶということ…?)

 清流は脳内で一度シミュレーションしてみるも、あまりのハードルの高さに首を全力で振った。

 「いえ、無理ですっ、」

 「要は慣れだろ一回言ってみれば、サンハイ」

 「変な掛け声いらないですから!」

 顔を覗き込まれるように近づいてきて思わず後ずさる。

 「清流も家と会社で使い分ければいいだろ」

 「そうですけど、そういうの忘れてうっかり呼び間違えそうですし…私、物覚え悪いんで、」

 そう言い終わるが早いか、洸から頬をぎゅっとつねられた。

 「い、痛いです…」

 「あんまり卑下すんな」

 「は、はい…?」

 「うちの採用試験もパスしたんだ。頭も物覚えも悪くもない、面接した人事も褒めてたよ。人事の評価表を見せてやりたいくらい」

 まさかそんなふうに言われるとは思わず、清流はただ驚いて目を見張る。

 「いいか、この試用期間中はお前の自己肯定感爆上げ期間にするからな」

 口調は冗談っぽいけれど、その目は意外なほど真剣だった。

 「…それは初めて聞いたんですけど」

 「だろうな、俺も今思いついた」

 ふっと笑うと、頬から手が離れて髪をぐしゃぐしゃと撫でられる。

 抗議しようかと洸を見上げるもその笑顔に毒気を抜かれてしまい、清流はそのままされるがままになっていた。


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