それらすべてが愛になる
 「お、終わったぁ……」

 最後の数値を打ち込み保存ボタンを押して、清流は達成感と疲労で一気に脱力した。

 時計を見るともうすぐ夜の十時。

 未知夏と舞原はそれぞれ一時間前に、唯崎もその少し後に退社していて、部屋には清流一人だった。

 未知夏と舞原が手伝おうとしてくれたけれど、初めて任された仕事は最後までやり遂げたかったため、お礼を言いつつも先に帰ってもらっていた。

 とりあえず今日中に終わってよかったとほっとすると同時に、ぐう、とお腹が鳴る。

 「お腹空いた…家に何かあったっけ」

 冷凍庫の中に作り置きのおかずがあったかを思い出す。
 残ったいくつかを合わせれば夕食分ぐらいにはなりそうだ。ちょうど食べ切ってしまおう。

 (加賀城さんの言う通り、仕事に慣れるまではなかなか大変かもしれないな)

 部長席のあるパーティションの向こうには、洸の姿はない。
 共有の予定表を見ると、昼過ぎに客先での打ち合わせが何件も入っており、最後が夜の九時半になっている。おそらくそのまま直帰の予定なのだろう。

 帰る準備を始めながらバッグの中のスマートフォンを手に取ると、一件のメッセージの通知。メッセージを開くと洸からだった。

 『これから帰る。あんまり遅くなるなよ』

 簡潔な一文。送信されたのは二十分ほど前だ。

 休憩もほとんど取らずノンストップで仕事をしていたからか、着信があったことに気づいていなかった。

 清流は少しだけ考えて『これから帰ります』とだけ打って送信ボタンを押す。

 (一応、心配してくれてるのかな…?)

 これから帰るとか、そんな何気ない報告をする相手が今までなく、したことがない。
 こういうやり取りも何だか照れくさくて、すぐにアプリを閉じてスマートフォンをバッグへと投げ入れる。

 これから繰り返せば、だんだんと慣れていくのだろうか。


 そんなことを思いながら、大急ぎで片づけをしてオフィスを後にした。


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